カレイドヴルフ城、玉座の間。
翌日のそこには、厳粛な空気が張り詰めていた。

王冠を被るラズワルドは玉座から立ち上がり、正装に身を包んだ息子が歩み寄るのを待ち受ける。
見守る騎士団や貴族は深く首を垂れていた。
上座に位置する分家一家も例にもれず。

――長男のシンハだけは、詰まらなさそうに床を見つめていたが。



カレイドヴルフ王家の戴冠の儀式は、ごく身内だけが出席を許される。
新しい王の民衆へのお披露目はこの後のパレードで行われるのだ。
ちなみに、これまでの戴冠式では国が決めた聖人から王冠を渡されたのだが、今回はラズワルド本人がコーネルへ冠を託す。
この手で息子に冠を渡せる――ラズワルドが年甲斐になくはしゃいでいたことは、ここだけの話。



深い藍色の軍服姿のコーネルがラズワルドの前へ至る。
ラズワルドは前口上として、そのよく通る声を張り上げた。

「コーネル・ヴィント・オリゾンテ第一王子。我が息子。
その生涯をこの国のために捧げると誓うか?」

「この海に誓います」

「民の幸福を約束せよ。己が心を忘れ、民を運ぶ船となれ。
嵐を超え、その先へ。遥か遠き未来の地へ。
今ここに、新しい時代への船出を宣言する。
舵をとれ!! その航海に幸多からんことを!!」

王冠がラズワルドからコーネルへ。
金の錫杖を受け取ると、ラズワルドが長年使っていた赤い外套がコーネルの肩にかけられた。

「我が息子はこれより、青の国の王となる。称えよ、皆の者!!」

「コーネル陛下、ばんざーい!!」

「カレイドヴルフに栄光あれ!!」

盛大な拍手が玉座の間に響いた。
コーネルはゆっくり振り返り、錫杖でトン、と床を突いた。

「王位は継がれた。長きに渡り我が国を治めた父に感謝と労いの心を。一同、跪け!」

ザッ、と膝をついた参列者達。コーネルも再び父に顔を向け、静かに跪いた。
ラズワルドは目を白黒させている。予定にない項目だったからだ。

「……アドリブというやつです、父上」

ぽつりと聞こえた不器用な呟き。
『父』は思わず目頭を押さえてしまったのだった。


-03-


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