コーネルは1人、丘の上から故郷を見つめていた。
先ほどまでカイヤと共にいたが、彼女は「目立つのはキライです」と言い残し、1人でさっさと王都カレイドヴルフへと帰っていったのだ。
懐かしい潮風が橙の髪を撫でる。
こうして自由な風を感じられるのも、恐らくは今日この瞬間が最後だろう。
ふう、と肩の力を抜いたコーネルは、確かな足取りで丘を下り、石畳を進んだ。
「あ、あれは……コーネル殿下じゃないか?!」
「わあ、王子様だ!! おかえりなさいませー!!」
王都の住人が各々の手を止め、一斉に彼へと笑顔を向ける。
事の発端は彼の脱走劇だったが、うまい言い訳でも流して「王子は旅に出た」と知らされているのかもしれない。
英雄の帰還とでも言いたげに大歓声が上がった。
王都に一歩踏み入れただけで、住人達の波に押し潰されそうになった。
やめろ、と言うに言えず、もみくちゃにされながら王都の奥へ押し流される。
こんな感覚はいつ以来だろうか。
昔の彼なら怒鳴り散らして退散させていただろうが、今はただ「わかったわかった」とぼやきながら身を任せる。
我ながら甘くなったものだな、と内心鼻で笑った。
騒ぎを聞きつけ、騎士団の面々が城の方から駆けてきた。
『邪なる者』により与えられた被害の後始末をするために、平時よりも大勢の騎士が動員されているようだ。
住人達が作る人ごみの渦を大声で掻き分けながらやってくる。
「こ、コーネル殿下ではありませんか?!
ご無事で何よりでございます!!」
「あぁ。……戻った。世話をかけた」
「ま、まさかお一人で?!
お怪我はされておりませんか?!」
「……心配ない」
人ごみの端でカイヤがニヤニヤ笑っているような気がした。
この祭りのような騒ぎを彼女は察して、早々に逃げ出したのだろう。
「ラズワルド陛下も喜ばれるでしょう。さぁ、こちらへ!」
「先導されずともわかる。俺の家だぞ」
両脇を騎士達にしっかりと挟まれ、半ば連行されるようにコーネルは城へと向かう。
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