藍色の空に、色とりどりの花が咲く。
大歓声がそこかしこで響いていた。



この日のためにわざわざ仕立てたという浴衣に袖を通すマオリは、リンゴ飴やお面を片手に子供のようにはしゃいでいた。

「そこまで堪能します?」

「それはもちろん!
わたくし、この国にいながらこの花火大会に来たのは初めてですのよ」

「ふうん、意外ですねぇ」

「付き合ってくださる友人も恋人もおりませんでしたの!
もう、言わせないでくださいまし」

「それもまた意外。マオリさんほど美しければ、寄ってくる男も多いでしょうに」

「あ、あら。お上手」

「これは失礼。失言でした」

「もう聞いてしまいましたもの。うふふ!」

岬から花火を見つめる。
色彩豊かな光が映るアンリの瞳。まるで万華鏡のようだ、とマオリは見入っていた。

周りの客は皆揃って空を見上げることに忙しそうだ。
心を落ち着けるように、持っていたリンゴ飴を一舐めしてから、マオリはそっと片手を伸ばした。
行き場もなく垂れ下がっていた手に自分の手を重ね、指を絡める。
いつも目の前で走る様を見ていたその手は、“男性”の手だった。

「帰ったら始末書でも書きますかね……。
『私は女子生徒と手を繋いでしまいました』とね」

そっと握り返された手は少し冷たくて、でもマオリの手をすっぽりと包み込んでいた。

「……お慕いしていますわ、シュタイン先生」

小さな声にそっと乗せたその想いが届いたのかはわからない。
空に咲いた大きな花の音が、掻き消してしまったから。





【Another Chronicle 後日談 “誰がために花は咲く”】




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