カレイドヴルフ国立魔法学校では、毎年夏と冬に全課程一律で進級と卒業の試験が行われる。
この試験に合格すれば、秋または次の春から新しい課程へと駒を進めることができるのだ。
次の課程へ進みたい者は進級試験を、そして卒業を目指すのであれば卒業試験を。
どちらも定期考査とは比にならない難易度を誇り、計画性のない対策では歯が立たない。

そんな試験を、あのマオリが自ら挑戦すると言い出し、職員達の間に衝撃が走った。

彼女が望んでいるのは中等科の先である特進科への進級試験だ。
中等科で学ぶ内容を総ざらいし、さらには応用問題をも解く必要があるというのに、彼女は自信満々で受験の申し込みをしたのだ。
ちなみにこの試験には受験料を支払う必要がある。合否のいかんを問わず、そこそこいい値段を出さなければいけない。

もちろん、マオリの父であるノゼアン公爵が金を出すのだが、娘の学力の程度を痛いほどよく知る彼は、当然ながらかなり渋った。
――自身の欲のために遊女を買い漁る男であるにも関わらず、だが。

公爵家にとっては受験料などはした金だが、公爵当人はなかなか首を縦に振らない。
ならばとマオリは伯父であるラズワルド王に集りにいくぞと脅し、「それだけはやめてくれ」と泣きつく父から財布を奪って事なきを得たのだった。



マオリは意気揚々とアンリのもとへ向かい、進級試験受験の書類を見せびらかす。
どう考えても落ちるに決まっている。アンリはやんわり忠告したが、マオリは聞く耳持たずである。
これから試験日まで地獄のような補講の日々が始まる……と彼の意識が遠のく気配がする。
一方のマオリは、また補講の日々を送れることに嬉々としているようだった。腹を括るしかないらしい。

「いいですか、マオリさん。よく聞いてください。
僕が貴女の進級試験に付き合うのは、今回が最初で最後です。
たとえ今回落ちようが、次はないと思ってください。僕も暇ではないんです。
貴女のために使う時間を捻出すればするほど、僕の人生は逼迫するんです。
そこんところ、よろしくお願いしますよ」

いつになく大真面目な顔つきで宣言され、マオリも真剣に頷く。

「えぇ。わかりましたわ。任せてくださいまし!!」

それから2ヶ月あまり、怒涛の試験勉強の日々が始まった――



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