青の国の王家、オリゾンテ家の分家であるマオリは、カレイドヴルフ国立魔法学校中等科の生徒だ。
もう18歳にも関わらず中等科に所属している理由。
それは、彼女の学力が同世代から少々劣るからである。
魔法学校には3つの専攻がある。精霊術、錬金術、そして召喚術。
錬金術科と召喚術科は生まれ持っての才能を必要とするが、精霊術科は試験さえ突破すれば入学できる基礎的な学科である。
それにも関わらず、マオリはいちばん最初の初等科の時点から赤点常習犯の片鱗を見せていたのだ。
初等科といえば通常なら12歳になる頃には卒業して中等科に進むものだが、マオリに至ってはつい3年ほど前まで進級試験に落ち続けた経歴がある。ここまで“出来ない”生徒は初めてだと学長も頭を抱えるほどである。
では、それほどまでに学力に嫌われたマオリが何故学校にいるのかというと、家柄の問題だ。
貴族としての箔をつけるために、彼女は教育機関に放り込まれて現在に至る。
彼女の兄シンハも学び舎を共にしていた。彼もまた妹と似たり寄ったりな頭脳だったが、中等科の次課程である特進科を無事に卒業して学校から去った。その卒業には少々キナ臭い疑惑が生じる部分もあったのは言うまでもなく。
さて、当人のマオリについてだ。
王家の分家令嬢であるプライドもあり、彼女は高飛車、高慢ちきな娘だ。
周囲には色眼鏡で見る者も多い。そして化けの皮が剥がれると皆立ち去るのだ。
初等科で仲良くしていた同世代に学力で置き去りにされ、友達だったはずの存在はマオリの出来なさを嗤う。
それでも気立てのいい者がマオリと親しくしようとすると、決まって不仲の兄が裏で足を引っ張り、嗤う。
――つまるところ、友達が一人もいないのである。
理解できない授業、友人のいないクラス。これで学校生活を楽しめという方が無理な話だろう。
さらにはマオリを担当している教師ですら「面倒を見切れない」と匙を投げる始末。
いっそ退学した方が良さそうなものだが、それ以上にマオリは実家が大嫌いだ。
母である公爵夫人が愛想をつかして出ていくほどに遊女好きな実父。
顔を合わせるだけでゴミだクズだと罵ってくる兄。
そんな家族がいる屋敷には誰だって帰りたくない。
寮生活で安らぐためだけに在学しているようなものといえる。
何の希望も見出せないまま学校に通い続ける彼女に転機が訪れたのは、今から数ヶ月前のことだった。
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