クルトの街の酒場は夜分でも賑やかだった。
「ごめんね。こんな無骨な店じゃ、デートに相応しくないよね?
明るくなったらもっとお洒落なお店に案内するから」
冗談か本気かはわからないが、委縮していたサフィは少し緊張を解く。
「それで、俺が死んでる間に何があったのか、聞かせてもらってもいい?」
サフィは自分が知り得る限りの過程を話す。
ガラントの教会で、重罪人の遺体を受け入れた事。
その遺体というのがアンバーであって、サフィは埋葬を命じられた者であること。
せめてその傷口を綺麗にしてから見送ろうと、アンバーの傷を癒している途中で魔法が暴走した事・・・――
アンバーはうんうんと頷きつつ、話の切れ目に麦酒を飲んだ。
「なるほどねぇ。俺の死体をどうするか困って、結局君の教会に厄介払いってわけ。
まぁでも、ラッキーだったかも?
こーんな可愛い子と出会えちゃったもんね♪」
ここまで直球で口説きにかかってくる男はサフィにとって初めてだった。
赤くなって俯く度に、彼はさぞ愛らしそうに笑う。
「俺を生き返らせたのは君って事だよね。
じゃあ俺、君のシモベになっちゃおう。
どっか行きたいとこない? 案内するよ!」
「で、でも、あの、私、とんでもないことを・・・」
「とんでもないことって、俺を生き返らせた事?
別に、どうってことないじゃん。っていうか、このまま死んだんじゃ、俺ってば無念のあまり化けて出るところだったよ!
全然気にしてない。むしろ超感謝。俺と君はもう友達、ってね!
聞いた感じじゃ、君ってば不幸そのものみたいな身の上じゃない。
もっと楽しい事経験しなきゃ! ねっ?」
楽しい事・・・――
はて、教会に来る前はどんな日々だったのか。
私は両親に捨てられて、あの教会に・・・――
“何か”が、記憶から抜け落ちたような。
「友達もキョウダイも“いなかった”んじゃ、小さい頃なんてつまんなかったでしょ?」
アンバーはサフィから聞いた話を口にしたが、サフィは頭の中に霧がかかっているような気分になる。
私がこの人に話した身の上。
・・・本当に、真実?
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