アンバーという青年は、アルマツィアとは縁遠い夏の日差しのような存在だった。
この雪国では決して触れられなかった存在だったろうに、彼がいるだけでその先の楽しみを想像させられる。
夏、だ。サフィは青の国へ行ってみたいとアンバーに話す。

「いいよ! もちろん!
俺もあの国は大好き。楽しいからね!」

のんびりと白の国を横断する気ままな2人旅が始まる。





その旅は、決して楽しいだけのものではなかった。
いつからか不気味な黒づくめの3人衆に追われるようになり、その度にアンバーが身を呈してサフィを守り抜いた。
執拗にサフィを狙う、粗暴な少女の声。
知らない、知らない、こんな声。私の“記憶にない”。

「目を覚ませよ、サファイア・・・。
アタシだよ。憶えてねーのか・・・」

必死で逃げ去っていく2人の後ろ姿に、3人衆の1人が悔しそうに呼びかける。



やっと見つけたと思ったのに。
2人を逃す度に、その少女は唇を噛む。

――恨んでるのか、アタシを?

――お前が受けた仕打ちに気付いてやれなかったアタシを?



「姉御ぉ、どうしやす?
見失っちまいましたけんども」

「チッ。出直しだ。
ぜってー捕まえてやる、サファイア!!
今度こそ離さねーからな!!!」





【Another Chronicle 前日譚 “死にゆく彼への祈り”】



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