アンバーという青年は、アルマツィアとは縁遠い夏の日差しのような存在だった。
この雪国では決して触れられなかった存在だったろうに、彼がいるだけでその先の楽しみを想像させられる。
夏、だ。サフィは青の国へ行ってみたいとアンバーに話す。
「いいよ! もちろん!
俺もあの国は大好き。楽しいからね!」
のんびりと白の国を横断する気ままな2人旅が始まる。
その旅は、決して楽しいだけのものではなかった。
いつからか不気味な黒づくめの3人衆に追われるようになり、その度にアンバーが身を呈してサフィを守り抜いた。
執拗にサフィを狙う、粗暴な少女の声。
知らない、知らない、こんな声。私の“記憶にない”。
「目を覚ませよ、サファイア・・・。
アタシだよ。憶えてねーのか・・・」
必死で逃げ去っていく2人の後ろ姿に、3人衆の1人が悔しそうに呼びかける。
やっと見つけたと思ったのに。
2人を逃す度に、その少女は唇を噛む。
――恨んでるのか、アタシを?
――お前が受けた仕打ちに気付いてやれなかったアタシを?
「姉御ぉ、どうしやす?
見失っちまいましたけんども」
「チッ。出直しだ。
ぜってー捕まえてやる、サファイア!!
今度こそ離さねーからな!!!」
【Another Chronicle 前日譚 “死にゆく彼への祈り”】
-16-
≪Back
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved