教皇を暗殺しようなどと考える人物だ。
どんな極悪人の形相かと恐る恐る棺を開けてみて、すぐにその警戒を解く。
そこに入れられていたのは、長身で金髪の、どこにでもいそうな若い男性だった。
すっかり冷え切った死に顔は血に濡れていて、彼の身体の至る所に槍で突き刺されたような痕跡がある。
磔刑台から下ろされたそのままの状態で棺に放り込まれたのか、死者らしく手を組んでさえいない。
寒さに震えるサファイアの手よりも更に冷たい彼の手をとり、そっと両手を組ませる。
せめて祈りを捧げようと、サファイアも手を組む。
視界が滲んだ。
どんな人生を送った人なのだろう。
本当に、彼を見送る人は誰もいないの?
このまま土の中で永遠に眠るの?
答える人はいない。
傷だらけの遺体を見かねて、サファイアは手をかざす。
人生が狂ったあの日から使う事を拒んでいた、かつては大好きな姉の傷を癒していた力。
死体に効果があるのかはわからなかったが、このまま眠るには些か不憫すぎる。
傷口に淡い光を当てると、痛々しい傷跡は静かに塞がった。
致命傷となったであろう胸の傷に手をかざした時、不意に“あの時”の記憶が蘇る。
そして、薄らいでいく。
白い光に包まれ、大好きだった姉の面影が、消えた。
-12-
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