先日、聖都の教皇達が住む宮殿に賊の集団が入り込み、あわや教皇暗殺となりかけたらしい。
その賊集団の頭目が、聖都で公開処刑となったらしい。
イアスがガラントの教会を訪ねてきた理由は、その重罪人の遺体を受け入れる先を探しての事だった。
どうして犯罪者の亡骸ばかり受け入れているのかサファイアは疑問だったが、すぐにその思惑を察する。

重罪人、とりわけ処刑となった遺体はどんな教会からも受け入れを断られる。
そこで国は、その遺体を引き取った教会に、見舞金として大金を支払う事を決めている。
それでも名高い教会が大金目当てに罪人の遺体を受け入れるわけもなく、結局辺境の無名な教会がその受け入れ先となっていたのだ。
ガラントの教会はまさにうってつけであり、司祭が金欲しさに多くの罪人の遺体を引き取っていたというわけだ。

サファイアが知らないだけで、実は司祭は慈悲深いお方なのかもしれない・・・と一縷の望みもあったものだが、真実を知った彼女は気が遠くなる思いをする。
罪深き人とはいえ、その命を以て贖罪を果たした身体は、司祭にとっては廃棄物でしかなかったのだ、と。



教皇暗殺を企てた罪人など、どんな巨額が付くかわからない。
司祭はもちろん飛びついて、その遺体を引き取る事を承諾した。
サファイアがこの教会に来て初めて、その受け入れの一部始終を見る事になった。

とはいっても誰も大した感慨もなく、その遺体は簡素な棺に入れられて教会に運び込まれ、運び屋は用事を済ませるとさっさと立ち去って行った。
受け取った大金に盛り上がる司祭は金貨の枚数の計算に忙しく、修道女達もわざわざ罪人の棺に触れる事もなく素通りしていく。
たった1人、サファイアだけがその棺の傍らに立ち尽くしていた。

この人、一体どうしたら・・・――



金勘定を終えた司祭がサファイアのもとにやってくる。
多大な富をもたらしたというのに、放置されたその棺を汚らわしそうに見てから、司祭は彼女に吐き捨てるように告げる。

「裏の墓地に埋めておけ。どこでもいい。適当に穴を掘って、その辺の木の枝で十字架を組んで刺しておけばいい」

サファイアは驚きのあまり硬直した。
華奢な少女1人にやらせる作業ではない事もそうなのだが、祈りの1つもないままいきなり埋葬するとは思ってもみなかったからである。
同時に、あの墓地に眠る人は全員そのような仕打ちを受けていたのかと考えると、感情が高ぶる気配を覚える。

司祭はさっさと奥の部屋へと引っ込み、サファイアは何も考えられずに棺に寄り添う。
薄い板で蓋をされたその中に横たわる人は、一体どんな人なのだろう。


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