聖職者とは名ばかり。
サファイアが入れられた教会にいる連中は、貧しい田舎村の風に吹かれて大層やる気なく、そして陰湿な性格ばかりだった。
会話の輪にさえ入れてもらえないために細かい事情はよくわからなかったが、このガラントという村の教会は厄介払いされた孤児達の受け皿だったようだ。
各々の過去が暗いものばかり。この教会の長である司祭の男も信仰心だけが取り柄の石頭な陰気男だ。
貧しさ故に食料も不足しており、司祭にこき使われる修道女達は鬱憤晴らしに新米のサファイアを捌け口としていた。
ただでさえ少ない食事がサファイアの分だけ冷え切った具のないスープにされたり、司祭が隠し持っている甘味を修道女達が独り占めしたり。
実家から持ってきたサファイアの私物が何者かにボロボロにされていた事もよくあった。
それでもサファイアは理不尽な仕打ちに耐え、何事にも健気に全力を尽くしていた。
いい子にしていれば、もしかしたら母が迎えに来てくれるかもしれないと淡い期待だけを胸に抱いて。
それがまた気に食わないらしく、修道女達のイジメは日に日にエスカレートしていく。
サファイアは幼い頃からオルガンを嗜んでいた。
全てはシスターとしての教養だったが、オルガンの演奏はサファイアにとっても趣味と言える1つだった。
ガラントの教会にも、使われなくなって久しいオルガンが鎮座していた。
埃を被っていたそれを見つけた彼女は、綺麗に掃除をして鍵盤に手を触れる。
そうだ、綺麗な曲を聞けば、教会の人達もお祈りする心を取り戻すかもしれない・・・――
彼女はそう思い付き、女神を称える一曲を鮮やかに弾き始める。
だがその音色を聞きつけた司祭が駆けつけ、思い切り鍵盤の蓋を閉めてしまう。
挟まれた手の痛みに悲鳴を上げそうになったところで、司祭は烈火の如く怒ったのだった。
「勝手に聖なるものに触れるな、穢れた小娘めっ!!」
陰では修道女達がクスクスと笑っている。
必死に謝るサファイアを許す事もなく、司祭は彼女に外の仕事を命じた。
教会の裏手にある墓場の管理だ。
この雪国で、誰も来やしない墓地の手入れをしようとする者は誰もいない。
寒風吹きすさぶ中で、サファイアはぼんやりと無数の十字架を見つめた。
-08-
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