私は捨てられた。
ルーチェ家に。お父様に。お母様に。



別れの言葉もないままに、母は去ってしまった。
もう二度とあの力は使わないから、今まで以上に勉強も頑張るから、もうワガママは言わないから・・・。
いくらそう誓いたくても、迎えは来ない。
サファイアは小さくなっていく馬車を見つめて立ち尽くす。
お父様もお母様も、私をよく褒めてくれた。愛してくれていた。はず、なのに。
今までの愛情は全て嘘だったのだろうか?





「良家のお嬢様なんだって?
あぁ、いやだわ。生意気そうで」

小奇麗な服のサファイアを見る修道女がぼそぼそ呟く。

「残念ながらあなたは捨てられたのよ。
今までどんなに幸せだったか知らないけど、いい気味。
ほら、早く仕事して。その可愛いお洋服を汚したくなかったら、このボロ着に着替えてちょうだい」

若いがベテラン風の修道女が、よれた紺色の地味なワンピースとエプロン、そして箒を手渡してくる。
それを受け取って呆然とするサファイアを見た修道女達はさぞ面白そうに笑った。

「ひょっとして、まともに掃除もできないのかしら。
仕方ないか。お嬢様だったんだものね!」

この日を境に、今までの生活は全て天上のものとなった。
真冬に冷え切った井戸水で雑巾を搾り、埃と灰に塗れながら教会の中を磨き続ける日々が始まったのだ。


-07-


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