夜明け前にサファイアは起こされた。
隣のガーネットは気持ち良さそうに眠っており、彼女を起こさないようにサファイアは母親に引っ張り起こされる。
「すぐに身支度をしなさい」
小声で母がそう告げる。
大きな鞄を突き渡された。
その鞄は、時々家族で遠出する時に使っていたものだ。
でも受け取ったそれに、かつての楽しさは湧いてこない。
直接告げられなかったが、サファイアは察する。
――この家から出る身支度なのだと。
黙々と荷物を詰め込む。
机の引き出しから小さな小物入れを取り出し、その中に入っていた指輪も鞄に入れた。
瑠璃色の宝石がはめ込まれたその指輪は、姉妹が10歳の誕生日を迎えた時に両親から贈られたもの。
ガーネットは紅色の宝石の指輪を持っている。
例えば晩餐会だったり、どこかへ遠出する時には姉妹揃って身に付けていた宝物だ。
荷物の整理を待っている母に咎められないようにそっと指輪を鞄に忍ばせ、立ち上がる。
ベッドの上で、ガーネットがごろんと寝返りを打った。
――ごめんね、シス。
俯くサファイアを連れ、母は外に用意していた馬車に乗り込む。
始終何の会話もない。
どこに連れて行かれるかもわからない。
馬車から見える光景は、住み慣れた聖都アルマツィアを出て、雪道を黙々と進み、太陽が真上に来る頃に足を止めた。
そこはガラントと呼ばれる白の国の田舎村だ。
馬車から降りると、小さな教会といくつかの民家が連なっているのが見える。
母に連れて行かれたのは教会で、司祭と母が話している間に、サファイアは教会の修道女に簡素な小部屋に連れていかれ、荷物を下ろすよう言われた。
ほどなくして外から蹄の音がする。
思わずサファイアは教会から飛び出した。
乗ってきた馬車が去っていく。
「お母様!」
精一杯叫んでも、馬が止まる事はなかった。
-06-
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