サファイア自身も混乱し、錯乱気味に次々と暴言を吐く母に何も言えずにただ泣いていた。
どうやら自分はとんでもないことをしてしまったらしい。
金切声を上げる母の言葉の断片から汲み取れたのは、歴代のルーチェ家で稀に死体を使役する『屍術士』が誕生するという話。
聖女としてのルーチェ家は、聖職者として名を馳せる一族だ。
神に祈りを捧げ、教皇の右手として生きる。そしてもう1つは、新たな夫婦の契りを見届けるシスターの役割。
祝福を与える第一人者が、不幸である死に関わってはならない。
ただ、ルーチェ家の長い歴史の中では、聖なる力が有り余り、生命を超えた境地に至ってしまう才能の持ち主が生まれる事があったという。
その力は生を終えた亡骸に仮初の命を再び与えてしまい、術士の意のままに操る。
ルーチェ家の輝かしい清廉潔白な歴史の中で揉み消された邪悪な屍術士の存在があるらしく、つまり今現在次の後継者として期待していたサファイアがその力を発現させた事は失望を通り越した悲劇なのだ。
何もかもを完璧にこなす事に依存していた母は、自分の跡を継ぐはずだったサファイアに盛大に裏切られたと嘆き悲しむ。
いつも可愛がってくれていた父でさえも、今のサファイアを見る目は冷たく冷え切っている。
その日はそこまでで詰問は終わったのだが、解放されて自室に戻っても、サファイアの顔に笑顔が戻る事はなかった。
部屋で待っていたガーネットはサファイアの全てを失くしたような顔つきを心配するが、自分の口から何があったのかを姉に伝える勇気は出なかった。
大好きな姉にまで父のような顔をされてしまったら、もう立ち直れないような気がしたのだ。
肝心の猫は部屋にいない。
恐る恐る本当に埋めてしまったのかとガーネットに尋ねると、彼女は頬を掻いた。
――こっそりメイドに預けた。
屋敷ではもう飼えない、かといって本当に土の中に“生き埋め”になんてできない。
ガーネットなりに苦悩した結果辿り着いた答えがそれだったのだろう。
サファイアはほっと胸を撫で下ろす。やっぱり大好きな姉はちゃんとわかってくれていた。
その日は幼い頃のように姉妹揃って同じベッドで手を繋いで眠る。
何となく、サファイアはそうしなければ後悔すると思ったのだ。
何故かは、わからないけれど。
-05-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved