冬の足音が近づく頃。
雪国として名高い白の国アルマツィアには一足早く粉雪が舞い降りる。
今年も長い長い冬がやってくる。

雪雲が空を覆い、街中が真っ白に染まったその日。
新しい小さな命が、そっと芽吹いた。





聖なる都として佇むアルマツィアの中、教皇達が住まう宮殿にほど近い場所に大きな屋敷が建っている。
そこはアルマツィアという国が出来た頃から、ある一家が先祖代々継いできた由緒正しい家系の住処。
教皇一家の直下に属する、ルーチェ家という名家だ。

ルーチェ家はこの時代でも珍しい、女系の一族である。
屋敷の主の肩書きを継ぐ者は、その家に生まれた最初の女性だ。
今代の当主もその例に倣い、国内で力のある男性貴族を夫に迎え、そして後継となる子を産む。
吐く息も凍りそうなその日ルーチェ家で産声を上げたのは、女児の双子であった。
待ち望んだ跡継ぎの娘が一度に2人も生まれ、この一家の特徴である白銀の髪をしっかり受け継いでおり、両親となった夫婦は心から祝福する。

ルーチェ家がなぜ女系なのか。
それははるか昔、この一家の創始者となった女性に由来する。
ルーチェ家の初代は、巷では“聖女”と呼ばれる存在であった。
アルマツィアが信仰する正の女神の化身としてこの世に生まれ落ちた『代理人』なのだ。
その瞳が映す世界が、この大地の母である正の女神が見る世界だという。

聖女が美しい世界を目の当たりにすれば、女神は喜び様々な祝福を与える。
聖女が醜い世界を目の当たりにしたならば、女神は失望し大地を見放す。

神話の時代から受け継がれるアルマツィアの歴史に、聖女の存在は欠かせない。
そして女神の眼となれる代理人は、決まって女性なのだ。
聖女としての確たる立場のためには、当主は女性である必要がある。

今代の当主も2人の娘に恵まれ、そして聖女の力を宿す子を2人も産んだ彼女には熱い羨望の眼差しが向けられる。

先に生まれた双子の姉、ガーネット。夕闇の空のような紅の瞳を持つ。
後に生まれた双子の妹、サファイア。蒼海の如き瑠璃の瞳を持つ。

容姿は母に似ており、幼いうちからその整った顔立ちが話題になるほど。
当主は2人の娘を完璧な後継者へと育てるため、まだ双子に物心も付かない頃から洗練された教育を施した。

絵に描いたような貴族一家として、ルーチェ家は厳かに慎ましく、整然とした暮らしを送っていた。
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