その年も、闘技大会の勝者を王城へ招き入れた。
今度もまた年若い、ゼノイという名の少年だった。
ティルバの付き人として、そして一小隊をまとめる隊長の地位にまで上り詰めていたメノウのもとに押し付けられる新米兵。
ゼノイは当時のメノウよりも更に悲惨な奴隷生活を送っていたらしく、挨拶の一言さえ話せないほど学がなかった。
一応聞いた言葉の理解はできていたようだが、意思の伝達に苦労する彼を受け入れたがる隊はどこにもなかったのだ。
この少年は闘技大会の優勝者とは思えないほどおどおどしており、何の自信も持てずに震えているようだった。
一度剣を持たせると人が変わったように見境なく敵を切り伏せる技量はあったようだが、その力の制御の仕方がわからずに途方に暮れている。
同じような経緯を持つメノウはゼノイを隊へ受け入れ、言葉の伝え方や戦い方まで世話を焼いた。
見えない不安を抱えるゼノイの姿は、かつて亡くした弟の姿を思い起こさせ、放っておけなかったのだ。
メノウが兵になってすぐの頃は、もちろん周囲からの当たりが強く、奴隷の時ほどではないにしろ理不尽に責められた事もある。
ゼノイもまさに今そのような状態で、砂が入ったスープを黙って口にしている姿もよく見かけた。
「飲みにでも行くか」
ただの思い付きでメノウはゼノイにそう声を掛ける。
信じられない、といった顔付きの彼を連れて、時々仕事帰りに酒場でたらふく食わせてやった。
「いい、んですか。隊長。俺・・・」
「なーに。今のうちに食っとかんと、せっかくの剣が死んでまうで」
ずっと弟にしてやりたかった事。
好きなだけ食わせて、笑顔になって、また明日を生きる気力を湧かせて。
もしヒスイが生きていたら、ここにいるゼノイと同い年くらいだっただろう。
思い出すと遣る瀬無い気分に心が支配されてしまうために、適当な安酒で感情を落ち着かせる。
ゼノイは口数が少ないために気難しく思われがちだったが、実際のところは、恩人であるメノウにいつも感謝と尊敬を向けているような純朴な少年だった。
やがてゼノイは見る見るうちに一端の兵としての能力を身に付け、メノウを補佐する右腕となる。
かつては明日の食い扶持にも困っていた人生だったが、穏やかな日々が流れていく。
――そう、“彼女”が現れるまでは。
-08-
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