闘技大会史上初めての事だった。



14歳の少年は、勝ち上がる過程で何十人もの人間の血で手を汚した。
最も期待されていた闘士も決勝で易々と葬り去り、結果的にその年の優勝者として名を連ねる事になる。
彼の技量に感服したエレミア家の王が王城へ彼を招き入れ、奴隷ではなく兵士としての新しい身分を与えた。
兄弟をこき使っていた主は、予想だにしなかった自らの奴隷の快挙を理由にエレミア家に地位や財産を迫るが、与えられた褒美に自惚れている間に何者かに惨殺された。
その遺体に残された傷口は数多の大剣の刃の跡であった事は言うまでもない。





兵士として新たな人生が始まったとはいえ、そもそもメノウは奴隷だったのだ。石を運ぶ能しかない。
誰もが怯えるほどの戦力を秩序に則って振るわせようと、王は彼に教育を施した。
丁度同い年ほどの王女もいた事で、ついでにある程度の教養を身に付けさせたのだ。
奴隷上がりの兵士としては異例の待遇である。
見た目からして半悪魔である事は明らかであり、そんな者を王城に入れて大丈夫なのかと不安視する者も多かったが、血筋よりも技量を買っていた王はそんな声も気にしなかった。

彼は勉強を嫌ったが、物覚えが異常に早かった。
理論よりも感覚で覚える気質のようで、直感に頼りやすい学問には滅法強かった。
一緒に講義を受けていた王女ティルバさえ、立場がないと笑うほどに。

半悪魔でまともな教育を受けていた者の前例など皆無に等しい。
普段は平坦なメノウでも、ふとした拍子に怒りや憎しみが湧くと凶悪な魔力の暴走が起きる。
この強大な力を自在に操れたなら、それこそ国を揺るがすほどの脅威にもなるだろう。
なんとかその能力を物にできないかと王は思案するが、メノウはその力を使う事を拒んだ。
自分は人とは違う、という現実をまざまざと見せつけられ、彼はより一層感情を抱えない事に徹した。
ただ命令に従い、その通りにこなすだけの駒だ。



時に内紛を鎮める剣として、時に王女の他愛無い話し相手として、彼は過ごしていた。
王城に来てから3年後、そんな彼の日々がまた変化していく。



-07-


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