亡骸を抱きしめてやるだけの時間もなく、敗れたヒスイはただの廃棄物のように扱われ、会場から姿を消す。
この大会の敗者の末路だ。幼くても、老齢でも、扱いは何も変わらない。
ヒスイの行方を追おうとするメノウだが、無情にも次の試合は彼の番号が示される。
いつもの彼だったら、ヒスイの後をそのまま追おうとしたかもしれない。
だがその時の彼は正常な判断を失くしていた。
直前まで持っていた剣を、更に大ぶりの大剣へと持ち変える。
重いモノばかり運ばされてきた人生だ。これくらいの武器、片手で事足りる。
先程までヒスイが口にしていた毒水の入ったコップを叩き割り、メノウは会場へと向かう。
そのあまりの殺意に、番人達も委縮するほどだ。
予想通り、やはりメノウの相手も雇われた人物のようだった。
筋骨隆々な戦士を前にし、まだ少年の面影があるメノウは大剣を構える。
鋭く相手を貫く、紫がかった橙と、朱色の瞳。
その目で見つめられたら、誰もが身を強張らせるような、“冷たい炎”のような色。
たかが少年如きの視線で気圧されるなど笑い話にもならないが、対する大男は未だかつてない恐怖を感じていた。
――殺される。間違いなく。
眠っていた闘争心が目覚めたよう。
メノウはここまでの数戦をただ見つめていたわけではない。
本能的に、その動きを記憶していた。
どうすればかわせるか、どうすれば隙を作れるか。
その技術にヒスイを奪われた憎悪が重なり、もはや鬼神の如き手腕を発揮する。
私怨が引き金となり、人ならざる魔力に支配されながら、彼は剣を振るう。
勝利を約束されていたはずの大男は予想外の展開に翻弄され、2周りほども体格が小さいこの少年に次々と致命的な傷を負わされていく。
大剣の一撃は重くのしかかり、傷口から血を流す度に体力を消耗していく。
削り取るように相手の戦力を奪い、やがて最後の一撃を倒れた背中に食らわせる。
ヒスイがそうされたように、その対価として愚かな人間共を葬る。
これが初めて武器を手にしたとは信じられない少年の戦いぶりに、観客は盛大な拍手を送る。
だがそんなものは彼の心に何も響かない。
弄ばれた弟を嗤った連中の賛辞など、雑音よりも価値がなかった。
-06-
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