兄弟は年が2つほど離れている。
彼らがそれぞれ14歳、12歳になった時の事だ。



相変わらず憎い貴族共の住処を作ってやっているところで、突然主に呼び出される。
今度はどんな仕置きが待ち受けているのか。
何をしていても、あるいは何もしていなくとも、適当な理由づけでこの半悪魔の兄弟を憂さ晴らしに使っていた主だ。
一通りの罰は受けたような気がするが、作業場とは別の場所に呼び出されての刑は初めてだ。
いよいよ殺されるかもしれんな、とぼやくメノウだが、ヒスイは抵抗する気に満ち溢れていた。

「えぇ機会や。兄貴、一緒にあのバカ野郎をギッタギタにしたろ?!」

どうせいつもの軽口だろうと受け流していると、ヒスイは懐に鋭利な石の破片を忍ばせていた。

「やめとけやめとけ。そんな石コロじゃ死なへんって」

「丸腰よりマシやろ!」

直前まで物騒な雑談を交わしていたとは知らない主は、兄弟にある事を告げる。

――ブランディアの祭事、『闘技大会』に出ろという話だった。



赤の国では年に一度、秋の頃に『闘技大会』という祭りを催す。
国一番の大きな行事であり、他国からも見物客がやってくる武闘の大会だ。
文字通り、出場者である奴隷が1対1で戦い、勝ち抜いた最後の1人はブランディアの王族に兵士として迎えられる。
つまり、年に一度だけ存在する、奴隷人生から抜け出すための唯一の手段なのだ。
ただしそれは茨の道であり、決して簡単に成し遂げられるものではない。
最後の1人となるためには、そこに至るまでの対戦で勝ち続けなければいけない。
勝敗はその命で決まり、どちらかが死ぬまで戦い、生き残った方が勝者となる。
優勝するためには、相手を皆殺しにする必要がある。

そんな大会に、“兄弟で”出ろ、というのだ。

勝者はたった1人。
この2人の兄弟が共に優勝を目指せば、いずれ必ず互いに殺し合う場面に出くわす。

兄弟を闘士として登録した、という主の事後報告が、呼び出しの理由であった。
主は“それ”を見たがっているのだ。





「ワイ、兄貴を殺すなんてことできへんわ」

いつも血気盛んなヒスイは、この時ばかりは心底落ち込んでいた。

「兄貴は? 兄貴は、どうなん?」

とても不安そうに聞いてくる。無理もない。
いくら生意気でも、まだまだ幼い少年なのだから。

「気にすんな。
ワイはどうせ途中で死ぬわ。
お前ほど強くもないしな」

「それだってイヤや!!
兄貴が誰かに殺されるとこなんて、見とうない!!」

「しゃーないやろ。
もうやるしかあらへんのやし」

既に決められてしまった別離の運命。
それを覆せる方法を、未熟な知識の中で必死に探し求めるヒスイ。

「せや!
兄貴、2人で決勝まで行こう」

「え? そしたらお前・・・――」

「ちゃう、ちゃう。
一緒に勝つんや!!
引き分けになれば、2人で優勝できる!」

単純な頭が辿り着いた案にキラキラと笑顔になる弟。
世の中そんなに甘くない、と思いつつも、これに頷けば弟はまた元気を取り戻すかもしれない。

「・・・わかった。
ほんなら最後まで勝ち抜いたろ」

「決まりやな!!
途中で死んだらアカンで、兄貴!」

少し知るだけでも、過去に引き分けとなった事例などない。
何が何でも殺し合う事になるだろう。
まぁ、その時は自分が死ねばいいだけの事だ。
こいつ1人くらいなら助かるだろう・・・――

束の間の希望の中で輝くヒスイを眺めつつ、メノウは苦笑いだった。


-03-


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