赤の国ブランディア。灼熱と退廃の国。
彼の地を治める王は、その実力を示した貴族である事が多い。
先代のエレミア家当主が王位を勝ち得たのも、その手腕が成した偉業。
彼は自らの子供達を次代の王にしようと、生前からあらゆる策を張り巡らせ、その結果彼の息子であるヴィオルが新たな王となる。
彼にはもう1人ティルバという娘がいたが、王たる器を備えつつも『女性である』というただの1点が、彼女から王冠を奪ってしまった。



――と、いうのが、今から11年ほど前の話だ。


このエレミア家の王位の前は、それはそれは荒れた時代であった。
今でもその余波は続いているが、当時のブランディアは蛮族の集まりかと言うほど野蛮で品のカケラもない、無法地帯であった。
道を歩いていたらいきなり見ず知らずの者に喧嘩を売られ、負ければそのままどこかの奴隷市場に売り出される、なんていう生きた心地のしない環境だ。
階級での貧富の差も激しく、貴族達は金に溺れ、一般民衆は貧困で死んでいく。もはや国としての機能さえ危ういほどだ。
まるで王都を囲う広大な砂漠が人々の心からも潤いを奪い去っていくよう。

赤の国は国土の7割は砂漠で出来上がっている。
その昔は鉱石や石炭といった資源に恵まれた地であったようなのだが、今から100年ほど昔に突然炎の渦に巻き込まれ、河川は干上がり資源は砂と化した。
自然を貪った天罰が下った、と人々は語り、以降は住んでいる人々でさえ感情が乾いてしまった。
その炎の渦の真相は未だ謎とされているが、『悪魔』の仕業ではないかと一部では囁かれている。



そう、このブランディアはどういうわけか悪魔との縁が強い地なのだ。
悪魔とは、人々の魔力を好む実体のない精神体のようなものだが、姿を見せる事は稀有とはいえ本当に存在している。
この国の歴史書を掘り返して見れば、節目となる時期にはいつも悪魔らしき存在がチラついている。
王が悪魔に唆されただの、悪魔を崇める邪教が出来上がっただの、世辞にも良い話ではない。
悪魔自身も好んでこの地を訪れるようで、人間を誑かして子を成すなど珍しい話でもない。
ある程度金を持っている層は、嗜好品としての悪魔を欲する。
金で奴隷達の身体という魔力を買い、悪魔を呼び寄せ、愛玩とするのだ。

さて、果たして精神体である悪魔とただの人間の間に子供は生まれるのか。
――生まれるのである。

悪魔はあらゆる事象の『面白さ』を測る独自の指標を持っている。
悪魔とは、道化と快楽を嗜む本能的な者達だ。
その程度は個体にもよるが、大半の悪魔達は自分が面白ければ後先も相手の事も何も考えず行動する。
そんな『面白さ』の1つとして、人間との間に子供を作る、という行動がある。
一時的に肉体を持つという、当人らにとっては高いコストである魔力を支払ってでも、体験したければするのである。
尤も、悪魔達を統べる王はそれを良しとせず、地上の人類との間に子を儲ける事はタブーとされている。
だがスリルを楽しむ悪魔がその禁忌を素直に受け入れるだろうか? 後はお察しの通りである。



エレミア家の他にも多数存在する、ブランディアの貴族達。
余るほど金を持つ彼らは悪魔遊びに興じ、そしてその身と血筋を滅ぼしていく。
アードリガー家という一貴族も、そんな例に漏れない典型的な家であった。
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