後を追おうとした。
娘を連れて、妻のもとへ。



それでも、愛しい人との子を殺せるはずなどなく。
こんな父親ですまない、と自ら命を断とうとした。

・・・が、お前に邪魔されたわけだ。



後に彼はぽつぽつとそう語った。
カラカラと音の鳴る玩具で無邪気に遊ぶ娘を抱いて。

父に母は務まらない。その手段の1つさえも何も知らない。
やつれて力なく笑う彼にそんな弱音を吐かせる事ができたのはラリマーだからだろうか。

「大丈夫。もう大丈夫よ。
私、知っての通りアバズレだけど、子供の世話は慣れてるのよ」

多くの幼子を養ってきた自分だからこそ、自信を持ってそう言える。
彼は俯き気味に、それでも本当に安心したように、ありがとうと口にした。





それからというもの、彼の娘に物心がつくまでは、母の代わりを買って出た。
おかげでメノウは精神を改め、堅実な道を選べる状態へと回復する。
娘はすくすくと成長し、一言二言喋り始めたくらいの頃に、ラリマーは白の国へ戻る事にする。

この無邪気な娘が、ラリマーを母だと思わないように。
あなたの“家族”という図が、歪になってしまわないように。

あなたには父と母がいる。
お母さんは明るくてしっかりした人だったそうよ。お父さんの事をとても愛していた。
お父さんはちょっと無愛想だけど、誰よりもあなたを大切に思ってる。

私?
私はそうね・・・。



なんでもないの。
あなたとも、あなたのお父さんとも。

私の事は知らなくていい事なのだから。
お父さんもきっと、喋らないだろうから。

でもいつか、大きくなったら、とびきりの笑顔を私に見せてちょうだいね。
幸せな夢を叶えて、良い人生を。





【Another Chronicle 前日譚 “男たちの沈黙”】






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