運命のいたずらか、誰も知らない必然の未来だったのか。

もしも神様がいるのだとしたら、世界最低のクズだ。





いつしか“赤い豹”と称えられるようになったメノウの噂は白の国にも流れてくる。
あれからもう随分と会っていない。ちゃんとした別れも告げないまま、逃げるように故郷へ戻ってしまった。今更合わせる顔もない。
募る想いから目を逸らし続けていたある日、妙な噂が流れているのを耳にする。

傭兵の仕事には表と裏があり、所謂裏の仕事というのは暗殺やスパイといった表沙汰に出来ない内容だ。
もちろん裏の仕事には法外な金額の報酬が設定されているが、一山当てようと挑んだ傭兵が生きて戻らなかった事もある。
並大抵の価値観ならば自ら受けようとはしないだろう。よっぽど金に困っていなければ、だが。

その姿に憧れる者さえ出始めてきた赤豹が、最近毛色の違う仕事ばかりしているという。
命の危機も否めないような派手な仕事を探しまわっているそうだ。



嫌な予感しかしない。
それは贔屓目を抜いてもおかしい行動だ。
計画的にコツコツと仕事をこなす姿を知っているだけに、ラリマーはいても立ってもいられなくなる。
もう一度彼に会ってしまったら、この心に募る想いが歯止めを失くしてしまいそうだ。
だがそれはそれとして、妙な胸騒ぎに襲われて仕方がないのだ。
あぁそうだ、これはかつて自分の人生が狂ったあの日に感じた感覚と一緒。

彼女はすぐに黒の国へと発った。





既に白の国のギルドより知り尽くしていそうなほど居座っていた、懐かしい場所。
黒の国のギルドを覗いてみるが、あの鮮烈な赤は見当たらない。
試しに近場の傭兵に訪ねてみると、神妙な面持ちで呟く。

「あぁ。あいつは変わっちまったな。
昔とは違う。心が死んでるんだ」

この2年の間に彼を襲った悲劇を聞いて、ラリマーは崩れ落ちる。




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