ラリマーは白の国まで戻ってきた。
しばらく姿を見かけなかった彼女に沸いた男達がほとんどだが、生来初めてと言ってもいい「そういう気分じゃない」状態だ。
真っ直ぐ自分の宿に帰って枕を濡らす日々が続く。
淡く夢見ていた、もしかしたらいつか有り得るかもしれない彼との未来。
そんなもの何の保証もないというのに、すっかりその気になっていた。
というか、もはや後には引けないほど彼への想いは募っていた。
あわよくば近々想いを告げてみようかなどと思っていた矢先に、急に奈落へ落とされた気持ちになる。
ラリマーほどの容姿であれば落とせない男はいないだろう。ただ1人を除いて。
さて、そんな彼を射止めた別の存在がこの世には存在する。
全く適う気がしない。何故かそう思える。
彼にはもう、その先の人生を寄り添って歩く伴侶がいるのだ。
きっと彼は“幸せ”だろう。
私はそんな彼の幸せを壊したいのか?
こんな汚れきった身体で、魂で。
いずれは子を持ち、家族となり、仲睦まじく暮らしていくんだろう。
当たり前の幸せをぶち壊した先がどうなるのか、ラリマーは痛いほどよく知っている。
大好きな母を壊し、小さな弟妹達を飢えに苦しませ、自分自身を金に換えたあの男の存在。
それさえなければ、彼女だって当たり前の幸せを生きられたかもしれない。
もうこれ以上、私と同じような気持ちを抱えて生きる人は増えなくていい・・・――
抱いてはいけなかった気持ちを振り払おうと、ラリマーは躍起になる。
やはりその道具となるのは偽りの愛。
大好きな人に愛されたかった。本当の愛を貰いたかった。
貪るように快楽の海に沈んでいく。
それから2年、彼女は黒の国には目を向けなかった。
-09-
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