それが恋だと気付いたのは、いつだろう。
なんせ今まで経験のない感情だ。
どんな男だって、彼女の前ではただ偽りの温もりをくれるだけの存在だった。
そんな連中とは何もかもが違う。
ただ快楽に溺れる一晩よりも、他愛もない話をするだけの1時間が恋しい。
ギルドに顔を出し、赤を探しては一喜一憂する。
相変わらず無口な男だったが、ラリマーの顔くらいは覚えてくれたのだろう。
目が合うと適当な挨拶を投げかけてくる。
よう、とか、あぁ、とか、その程度だったが、ラリマーはそれだけで1日中幸せそうな顔をしていた。
夜の蝶が恋をして更に美しくなった、と男が更に寄ってくるようになったが、その恋の先を自分に向ける事は叶わなかったようだ。
初めてに近しい幸せを感じ始めていた彼女だが、その時間は長続きしなかった。
いつものように彼を茶に誘おうと近づいた時に、ふと彼の左手に目が行く。
いつもなら手袋をはめているが、今日はそうではないようだ。
そこで彼女は固まってしまう。
彼の薬指に輝く銀色のリング。
それが煌めく場所の意味など、誰もが知っている。
彼は傭兵にしては珍しく自宅があり、夜も遅くまでは外に出ていない。
少し考えれば容易く想像つきそうなものだが、盲目になっていたラリマーはそんな違和感にも気付かなかったのだ。
メノウには、相手がいる。
きっと家で彼の帰りを待っている、幸せな人が。
-08-
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