その夜、ラリマーはやけ食いのように、次から次へと寄ってくる男を片っ端から骨抜きにしていく。
――そう、フラれたのだ。まさかの。
まるで男性に触れさせるためだけに磨き抜かれたような見事な肢体を前にして、拒む者など今まで1人もいなかったというのに。
赤髪の男性は無感情に「興味ない」と突っぱねた上にさっさと別の仕事へ行ってしまった上、夜も更けない内にギルドから去って行ったのだ。
何度も彼の気を引こうと気さくに話しかけたり甘い視線を投げかけたりしたが、彼は涼しい顔でそれらすべてを無視した。
結局、彼がギルドを去るまでに知る事が出来た情報は何もなかった。
あれだけの女性達に囲まれておきながら表情の1つも崩れず、必要以上の言葉も発しなかった。
この1度きりで逃してしまうなんて耐えられない、と彼女はその後彼が再び現れる日まで黒の国のギルドに張り付く事になる。
彼が現れない日は、黒の国のギルドでも経験が長い連中に彼についての話を聞いてまわる。
教えてやるから一晩相手しろ、というふざけた奴もいたが、ピンヒールで足を踏みつけて追い払う。
そんな中でようやくまともな話が出たのは、朝から数えて何人目の傭兵だった事か。
赤髪の男性――メノウという男は、数か月前から不定期に現れるようになったルーキーらしい。
通常新米の傭兵は先輩傭兵のもとでいくらか修行を積むのだが、彼の場合はあまりにも戦闘に強すぎて、先輩面ができる傭兵がいなかったらしい。
結局一通りの契約を交わしただけで、後は勝手に1人で仕事をこなしているようだ。
彼が現れてからというもの、日も浅いというのに難易度の高い仕事がどんどんギルドに舞い込んできててんやわんやしている――・・・
彼の背景を知る者は誰もいなかった。
どうしてこのギルドに来たのか、そもそも何故その戦闘力で傭兵になったのか、どういう基準で仕事を選んでいるのか。
誰も何もわからないのだ。
メノウは口数が少なく、ここへ来てからの日も浅いために交友関係にある仲間もいない。
これ以上の話は本人から聞くしかないようだ。
張り込み続けて数日後、再び彼が現れる。
すかさず飛びついて仕事を共にこなそうと誘うが、彼は面倒臭そうな目でラリマーを一瞥してからさっさと1人で行ってしまう。
せめて次にいつギルドへ来る予定か聞ければよかったのだが、その隙すら与えられない。
収穫のない虚しさを抱えて適当な男と夜を過ごす日々が続く。
彼女は、自分を抱いて喜ぶ男達の顔を見るのが好きだったが、メノウに会ってからは、そんな時間でさえもふと彼を思い出して上の空になる。
もし彼が適当な女と夜を過ごしていたとしたら、羨ましさを通り越して狂ってしまいそうなほどに。
-06-
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