その男はどこかからかフラリとやってきた。
いくら男に夢中だったとはいえ、一応は彼女も傭兵だ。
目ぼしい昼の仕事を探しに黒の国のギルドまで足を伸ばした時、彼女はその男と初めて出会った。
色褪せた何気ない日常の中で見つけた、鮮烈な赤。
かなり長身で、戦うべくして鍛えられたような腕の右側には包帯を巻いている。
ギルドの中で女性傭兵が数名、その赤色を囲んでいた。
先の通り、当時まだ女性の傭兵は少なかった。そんな中でこの数人を集めるほどの異彩を放つ男を、ラリマーは少し後ろの方から背伸びして確認する。
その姿が視界に入ったと同時に、今までにない衝撃が彼女の胸を劈くように走り抜ける。
勝手に高鳴る鼓動のまま、ラリマーも数名の女性達の中に紛れ込んだ。
話を聞いてみると、集まっていた女性傭兵達は用心棒となる男性傭兵を探していたところだったらしい。
戦闘が絡む仕事はもちろん報酬が高く設定されているのだが、比例して危険度も上がる。
非力な女性傭兵は、数人でチームを組んだ上で護衛となる男性傭兵をつける、というのがよくあるやり方だった。
彼女達はまさにそれで、そしてこの見慣れない赤髪の男性に護衛を頼んでいたのだ。
まぁ、ラリマーの目には女性達の下心が筒抜けではあるのだが。
弱冠17歳にして述べ数百の男と既に寝ていたラリマーは、この赤髪の男性を一瞬で品定めする。
彼女としては間違いない、いきなり首位確定の彼女好みの容姿をした男だった。
ラリマーの夜の顔は、白の国の隣であるこの黒の国のギルドにも広まっていたようで、先客の女性達は彼女の顔を見るなり敗北したような表情をする。
今さっきまでの勢いは何処に行ったか、という具合に目に見えてガッカリしているようだ。
どさくさに紛れてこの男性を誘惑できないかと目を光らせていたところに、どんな男も即座に落ちてしまう美人が来てしまったのだから致し方ない。
すっかり気持ちが萎えてしまっていた女性達だが、仕事は仕事でこの男性に護衛を依頼する事になった。
うっかり女性側の人数が1人増えたが、とりあえず戦力としては多い方がいいとしてそのまま迎え入れられる。
と、この先はお察しだろうが、もはや仕事そっちのけでラリマーはその男性を目で追っている。
というのも、この男性は異常に強いのだ。
あまり喋るのは得意ではないのか、しぶとく何度か声を掛け続けたところでようやく、彼はまだ傭兵になって間もない事を知る。
そのわりには、並の傭兵とは桁違いの戦闘経験があるように見える。
大ぶりの大剣を使いつつ器用に銃をも操る。その辺りのよくいる魔物など羽虫のように潰してしまうのだ。
ますますラリマーは釘づけになってしまう。言葉で聞かなくとも、「こいつと絶対寝てやる」という執念を感じるほどである。
仕事自体はあっさりと終了し、報酬金は全員で山分けして解散する。
名残惜しそうに男性をチラチラと見ながら去る女性達の姿が無くなった後、別の仕事を探そうと掲示板の方へ向かった男性をラリマーが引き留める。
その後はお決まりだ。
「今夜、時間・・・ある?」
その豊満な胸に浮かぶ魅惑の曲線を見せつけながら、彼女は男性にすり寄る。
-05-
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