傭兵とは、平たく言うと何でも屋である。
人探しから人殺しまで、子守から看取りまで。
それでも引き受けた仕事の分だけ見返りとなる金が手に入る。
当時、女性の傭兵はまだ少なく、ラリマーを育てた先輩傭兵も男性だった。
男性がやっているような魔物退治や暗殺といった戦闘が関わる仕事は難しかったが、配達や納品といった雑務は山ほどの依頼があった。
ラリマーはせかせかと下積みで修行をし、その真面目な姿勢からギルド内の評価も上がっていた。
もちろん稼いだ金は必要最低限だけを手元に残し、残りは全て母と弟妹達に送った。
ラリマーが売られた後にも情け容赦のない父は無責任に母を孕ませたらしく、知らない幼子が2,3人ほど増えていた。もちろんその子達も平等に養う。
彼女のおかげで人並みの水準で生活できるようになった母は奉公先から堂々と去り、ようやく穏やかな毎日を送る事が叶った。
時々顔を見せに家に帰ると、母は本当に嬉しそうにラリマーを抱きしめて迎え、弟妹達も歓迎する。
それだけで満足だった。

満足だった、はずなのだけれど。



そこに余裕が生まれると、ラリマーはふと塞がらない心の穴に気が付く。
それが何なのかはわからない。大好きな母は笑顔だし、弟妹達も帰る度に身長が伸びているし。

彼女は、普通の幸せさえも享受できなくなってしまっていたのだ。

幸せである事を恐れ、不安がない事が不安になる。
そんな埋まらない風穴を塞ぐ手段に彼女が選んだものは、あれほど憎んだ“男性”そのものだった。





一時の快楽に溺れ、偽りの愛を囁かれ、その身と引き換えに金を得る。
反吐が出るほど嫌悪していたあの行為も、自ら求めるのであれば悪くない――そう思うようになってしまった。
最初は1人だけ、2人だけ、と手を付けていたが、気付けば毎晩違う相手と薄暗い部屋で背徳的な時間を過ごす。
求め、求められる、そんな利害の一致だけの関係が、いつしか病みつきになってしまったのだ。

とはいえ、誰でもいいという訳でもない。
彼女なりに好みもあるし、その時々の相手によって一夜の代価が変わる。
彼女の美しい肢体を求める男は多く、どこかの貴族なども、噂を聞いて飛びついてきた。

そんな彼女の魔性に取りつかれた男達は彼女を我がものにしようと大金を積むが、夜の蝶はヒラリとかわしてなかなか捕まらない。
彼女が好む蜜を持つ者はいるのだろうか。
夜な夜な花畑を飛び回っては自分好みの花を探す彼女だが、“それ”に出会ったのはそれから数年後。
ラリマーが17歳の時だ。


-04-


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