白の国を統べる歴代教皇達の使命を知っているだろうか。
彼らは一にも二にも、自分の血を継ぐ男児を後世に残さねばならない。
脈々と受け継がれてきたグラース皇家という血筋は、世界で最も貴い聖なる血だという。
創世の神の子孫だとか、宗教的な旗印だとか。果たして真実は誰が知るのか。
彼らのご立派な信念では、男性こそが平等という文化を統治する存在であり、女性はそれに劣ると言われる。
現皇帝アルマス9世もその例に漏れず、結果的に4人の男児を授かった。
さて、そんな歴代教皇の影に埋もれて行った“女児”は一体何人いたことか。
教皇は代々、より多く男児を懐妊した妻を正式な妃とする。
ということは、つまり、俗にいう妾という存在も浮き彫りになる。
とはいえ教皇というものは民衆の目には清く正しい“正解”でなければならない。
妃になる事が叶わなかった女性達は、不要と烙印を押された娘を連れて宮殿を去らねばならない。
誰にも見送られず、誰の目にも触れないように、ひっそりと。
そんな彼女達の行く末には、必ずしも幸せが待ち構えているわけではないのだ。
今は女傭兵として名を馳せるラリマー・フリーデという女性も、実を言うとそんな悲しい女性を母に持つ“不要”のそれなのだ。
彼女の母は、教皇の妃となるべく幼い頃から深い教養と礼節を強いられ、ガラスの箱に入れられて育ったような令嬢だった。
母はかつて弱小と揶揄された小さな貴族一家の娘であり、転機の鍵となるべくアルマス9世のもとへ嫁がされた。
大きな期待を背負って教皇の愛を勝ち取ろうとしたものの、第一子である子供は女児。他の女性に男児を先に生まれてしまい、用済みとなってしまった。
もちろん実家には失望され、嫁いだ宮殿からも追い出されたその女性は、いきなり幼子を抱えて路頭に迷うハメになってしまったのである。
財産も後ろ楯もない若い女性が幼子を育てるなど、並大抵の苦労では敵わない。
かつては弱いながらも一貴族の令嬢として誇りを持っていたというのに、小さな子供を抱えた女性に真っ当な職などはなく、結局は自分自身を商品にするしか術がなかった。
学はあっても人生経験のない女性は見事にどうしようもないそこら辺の男にまんまと捕まり、良いように利用され、更に子供を増やして、その日何かを口にできるかもわからないほどの極貧に喘ぐ。
このどうしようもない男というのが、夫を名乗るわりには妻の稼ぎを全て遊んで使い果たすという外道の極みだ。
まだまだ幼いラリマーも、母の苦しみを知り、小さな弟妹達を養うために物乞いに精を出していた。
娘の健気さに涙する事も多々。母はラリマーに毎日のように己の無力を謝り、少しでも多くの食糧を自分の皿から可愛い娘へと分け与えていた。
今にも崩れてしまいそうなバランスで母娘は支え合って家族を養っていたが、そんな絆をも、夫であり父であるその男はいとも容易く壊してしまった・・・――
あろうことか、ラリマーは父に売り飛ばされてしまったのである。
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