育児放棄、とまではいかないが。
義理とはいえ父であるはずのクレイズが娘のカイヤに愛情を注いでいる場面を見た事がない。



クレイズ自身も教育者の傍らで学者活動をしており、その手伝いをアンリが行う事も多い。
雑務を片付けつつ、横目でカイヤの姿を眺める。
まだ3つか、4つくらいの年だろうか。親に甘えて遊びたい盛りだろうに、カイヤはただ静かに絵本を読んだりパズルで遊んでいるのが常だ。
与えられている玩具の数はかなり多いようだが、時々完成したパズルをクレイズに見せたそうにしてはそのまま何もせず我慢している仕草が見て取れる。
一方のクレイズに目を移せば、日がな一日机に向かっているだけで、まるでわざと父の近くにいるようなカイヤに目もくれない。
『無関心』というやつだ。アンリは少しばかり寒気を覚える。

拳骨ばかり食らわされていた幼少期を持つアンリだが、それは単に躾の一環であり、何でもない日は父と一緒に本を読んで過ごした思い出もある。
それは思い返せば悪くない記憶だが、今ここにいるカイヤにはそのような類の愛情が一切ないのだろう。
さすがに酷ではないかとクレイズに一言告げてみるが、本人は何の事だかさっぱり、という顔。
この男は徹底的に歪んでいる。事実ばかりに目を向けていて、目に見えない感情というものにはまるで興味がないんだ・・・――

アンリとて、ここまで幼い子供の面倒は慣れていない。
だがどうにも放っておくには気がかりすぎるカイヤに、不器用ながら遊び相手をしてやろうと奮起する。
よくよく見れば幼児にはまだ難しい本やパズルを自然に受け入れている様から、カイヤはかなり知能指数の高い子供だと直感する。
知らない言葉の読み方を教え、完成したパズルを褒め、たまには一緒に絵を描いたりと過ごしてやっているうちに、カイヤは見違えるほどよく笑う子供になった。
アンリを兄と慕い、懐き、年齢に似つかわず我慢ばかりしていたカイヤの変貌ぶりに、クレイズの方が目を白黒させるほどだ。
まったく君は教師というものが天職だね、と彼はアンリにぼやく。



それでもやはり足りないのは親からの愛だろう。
アンリに突かれて渋々娘と向き合い始めたクレイズも、その後数年もかけてだが、ゆっくりと父親らしくカイヤに接するようになってきた。

不器用な父と兄に育まれ、カイヤは少しずつ隠れていた才覚を出し始める。
蛙の子は蛙・・・――カイヤもまた、年少ながら魔法学校の生徒としての人生を歩み始めたのだ。

-06-


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