アンリは今もまだ教師として生きている。
同時に学者でもあり、歴史や考古学、化学、文化、言語、とにかくあらゆる分野に弛まぬ研究心を向けている。
彼を追いかけるように、カイヤもまた錬金術を極めようと学生生活を突き進んでいる。
クレイズはというと、野良犬のように転がり込んできたこの魔法学校で、いつの間にやら学長と肩を並べて教育の何たるかを議論している。
相変わらず人を選ぶような尖った性格のクレイズだが、後輩や娘との間柄は今でも良好だ。
10数年間共にいるが、未だにアンリはクレイズが本来抱えている事情を何も知らない。
あの日何故ここにやってきたのかも、どうして感情を切り離してしまっていたのかも、カイヤとの本当の繋がりは何なのかも、すべて。
それでも互いに詮索はしない。
知ったところでどうなるわけでもないし、知ったところで今の関係が変わる事もない。
――術士としては尊敬しているが、人間としては見習いたくない。
愛弟子の、師に対する辛辣な評価に仰け反りつつも、今日も今日とてこの奇妙な家族は何でもない日常を送る。
――どうして最初から“こういう風に”生きられなかったのかなぁ。
――まぁ、今が“そう”なら、いいんじゃあないですかぃ。
未来の事はその時考えましょう。
僕は、まぁ、未来についての研究には興味がないのでねぇ。
【Another Chronicle 前日譚 “考古学者は未来の夢を見るか?”】
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