通常、特進課程を卒業すれば一端の卒業生を名乗れる程度の世間体だ。
その次の学士課程、そして最終クラスである博士課程は、もはや趣味の領域とも言える。
もちろん、学ぶ事にこれ以上ないほど陶酔している姉弟は、進級のための難しい試験さえもあっさりと通過する。
一足早く学士、博士の域へと至ったローディは、後に最難関である黒の国の医療機関に研究者として斡旋され、配属された。



肝心のアンリはというと、実のところ将来については何も考えていなかった。
いざ学べるものをすべて学びつくしたところで、彼の知識欲は止まらないだろう。
上限を知らないこの才能を逃す手はない。学長は彼に教育者の道を示したのだった。

自他ともに認める人相の悪さでどうして生徒を指導できようか、と当初アンリはあまり乗り気ではなかった。
そんな彼に、学長は、学びつくしたのなら自ら学ぶための種を探しなさい、との話。
この青の国の魔法学校に教育者として残るならば、学者としての援助も惜しまないというのだ。
先人達が遺してきた知識を吸収しつくしたら、後は自らが知識を“生み出す”しかない・・・――
盲点だったそれに気付き、アンリは教育者となる道を選んだのだった。

それは謙遜か、真意か。
後のアンリにこの話を振れば、人の役に立ちたいなんて大層な理由じゃあないんです、と涼しい顔で答える。





さて、晴れて“先生”の道を志す事になった彼だが、どんな道にも教えを乞うための先人が必要なわけで。
生憎と、このアンリの頭脳に匹敵、更にいえば上を行く存在はなかなか見つからないのであった。
経験が長い教授でも自らの研究に忙しく、部下を育てる余裕はなさそうだった。
博士課程を過ごしながら自らの研究課題を模索するアンリを微笑ましく眺める学長も、どうにか都合のいい指導役はいないものかと頭を悩ませていた。



――果たしてそれは偶然か、必然か。

まさに適役が唐突にやってきたのだから、彼は運の良さにも恵まれていたのかもしれない。


-04-


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