青の国の魔法学校には、遠方から入学してきた生徒向けの寮が備えられている。
姉弟はそれぞれその寮に入り、朝から晩まで授業を詰め込んでせっせと学んでいた。



聞いた事もない田舎村からやってきた異色の編入生だ。どうしても面倒な輩の絡みがある。
故郷の訛りがうっかり出てしまうと笑われるし、狭苦しい村にはなかった派手な遊びや流行にも疎いがためにからかわれる。
順応しやすかったローディの方はそこそこうまくやれていたようだが、幼少時より常に反抗的だったアンリは少しの冗談にもすぐ噛みついた。
昔から弟を大切にしていたローディが心配して別の教室からやってくれば、また面倒な囃し立てに合う。
10代後半、とはいえ成人もまだである生徒達の大人げなさにうんざりしつつも、アンリは勉学に勤しむのを生きがいにしていた。
元々学ぶために遠路はるばるやってきたのだから、周囲に目もくれずに彼は優等生であり続けようとしたのだ。



着実に成績を積み上げ、姉弟は上位クラスの特進課程へと駒を進める。
この頃からローディは錬金術に深い関心を寄せるようになり、アンリは精霊術も召喚術も錬金術も万遍なく学んでいた。
1つの分野を極める生徒がほとんどで、欲張って複数分野に手を出した生徒は途中で挫折する・・・――
そんなジンクスをいとも簡単に破ったのはアンリだった。
彼は本当に、手を付けた科目は極めないと気が済まないという、生粋の秀才だったのだ。

とはいえ、彼とてまだ10代の青年。
多少なりとも道を逸れる事もある。後の彼は“若気の至り”と称する、不器用な青年の無粋な気晴らしだ。
身体に悪いと知りながらも煙を嗜んだり、たまには意識がなくなるほど飲み明かしてみたり。
いつの間にか擦れた人格になりつつある弟をローディはおろおろと見守る。
少し前にその名を轟かせた下衆な卒業生の残り香がまだある中で、また同じような男に成り果てるのではと教授達は戦々恐々としていた。
幸いにも、アンリは学び続けるという姿勢にれっきとした執念を持ち合わせていたために人道を逸脱するほどの迷走はなく、ほっと胸を撫で下ろした先人が多かったのは言うまでもない。

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