しばらく鳴りを潜めていたスキャンダル王の噂は、少しずつ雑誌の中身を充実させていく。
今度はどこの美人局に引っ掛かったか、とか。
彼が今年手を付けた女性の数はいかほどか、とか。
そんなくだらない、酒の肴にもならない、どうでもいい寓話。
本人さえも一蹴する、なんの意味も持たない話の数々。
結局女遊びが続いて、愛想を尽かした妻に逃げられた――・・・
噂には尾ひれがつきもので、真実など本人のみぞ知る。
或いは、本人も忘れたかもしれない。
大事に嵌めていた薬指の指輪はいつの間にやらどこかへ消え、今日も今日とてその男は酒に溺れ、女に溺れる。
注いでも注いでも満たされない杯に、手当り次第の快楽を注ぎ込んでいく。
かつて人生を変えた場所も捨て、自由気ままに、彼は生きている。
彼を繋ぎとめる鎖は切れたまま。
本当はあの頃に帰りたいんだ。
自分の為に微笑んでくれる存在がいた頃に。
もうどこにもいないと知りながら、それでもどこかで見ていて欲しいと、酔いに蕩けた視界で満天の星空を見上げる。
――さぁて、明日は久しぶりにアイツに会いにでも行くか。
火照った頭を冷やしてくれる、冷え切った友人のアイツに。
【Another Chronicle 前日譚 “大賢者はかく語りき”】
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