“悪魔”。それは、決して相容れない傍観者。
甘言を操る者が、更なる甘言に弄ばれる。これを滑稽と言わずしてなんと言う?
グレンは悪魔に頼ってしまった。
その多大な魔力の代償に自らの全てを支払う覚悟を決めて。
そう、“全てを支払う”覚悟だ。
積み上げてきたここまでの人生も、ようやく手にした幸せな日常も、全て、すべて。
強大な魔力があれば、どんな夢をも掴めるだろう。
不治の病で苦しむ息子だって、救えるかもしれない。
だがその方法は、必ずしも最善ではない。
悪魔がもたらすのは結果のみ。そこへ至るまでの過程は度外視だ。
グレンの場合も、例に漏れず。
グレンの余りある魔力に引き寄せられる悪魔は多かった。
だが小さな入口から大人数が出ようとしたら、どうなる?
――グレンが描いた魔法陣を通り抜けようと、何体もの悪魔が押し寄せたとしたら?
自分の魔力の多さを見誤っていたのが運の尽き。
彼の召喚に応えようと押しかけた悪魔の数は、書斎は愚か、家ごと吹き飛ばすなど容易いほど。
かくして、息子を救おうと悪魔に手を伸ばした男は、息子自身も、果ては最愛の妻さえも、跡形もなく消し去ってしまったのである。
-08-
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