穏やかな日常が変化したのは、フォシルが身ごもった時だ。



のほほんと受付を続けていたフォシルだが、ある時から謎の体調不良に悩まされるようになった。
その原因は新しく宿った命。グレンもフォシルも純粋に喜んだ。
その後も順調にお腹が大きくなり、やがてすんなりと小さな命が生を受ける。

生まれた子は男の子で、すくすくと成長し、どことなくグレンと似たような顔立ちになってくる。
どうやら知能は父親譲りらしく、両親の架け橋となった使い古しの教科書を絵本代わりに読むような子だった。
そんな息子の様子を見て、フォシルは息子を学校に入れたいと意気込むようになる。
自らは叶わなかったが、この子なら・・・と。

それからというもの、仕事から帰ったグレンは、今度は息子相手に教師となる。
父親から勉強を教わった後は、母親が作った美味しいごはんを食べ、両親の間に挟まれつつ眠る。
広い目で見ても、とても幸運な子供だっただろう。
だがその小さな身体に、着実に忍び寄る“悪魔”がいた。





平和だった生活に、流行り病という不吉な言葉が何度もチラつくようになる。
学校でも伝染した病で欠席する生徒、最悪そのまま戻ってこられなくなった生徒もいた。
日に日に少しずつ減っていく教え子の数。教壇から席を見渡しながら、今日は誰がいなくなった、と数える日が増えた。
ざわざわとした雑念に掻き乱される心。
落ち着かない毎日が続いた。



隣国の黒の国を中心に、じわじわと白の国まで感染が広がる不気味な病。
特効薬の研究が進まず、犠牲者ばかりが増えていく。
片田舎の小さな村では住人まるごと犠牲になった、などという噂も珍しくなかった。
イタズラに不安を煽られ焦燥感に負けた人々が、まだ感染例のない青の国や緑の国へ逃亡していく。
学校では実際に犠牲になった生徒の他にも、一家ごと国外へ去るために退学していく者も後を絶たなかった。

やがてその病魔は他人事ではなくなる。
グレンの身内からも、その病に侵された者が現れたからだ。

-06-


≪Back | Next≫


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved