それからの話は言うまでもない。



教科書の最後のページを閉じたその流れで、グレンは生まれて初めての告白というものをしたのだ。
一定の決まった相手を持った事のない彼は、柄にもなく落ち着きを忘れ、その日一日中ずっとフォシルに伝える言葉を脳内で復唱していた。

彼女と出会って、気が付けば数年。
彼女の純朴さと鈍感さは骨身にしみるほど思い知らされていたがゆえに、出来るだけ簡潔に、誤解無く、それでいて彼女が喜ぶような言葉の厳選に一体どれほど時間をかけただろうか。
あれこれ迷った挙句、最終的には単刀直入な言葉に落ち着いたのだが、フォシルは初めて、驚きと恥じらいの表情を見せたのだった。
二つ返事で頷いたフォシルの輝くような笑顔は生涯忘れない事だろう。



あの遊び人が特定の恋人を作った、という噂は瞬く間に広がる。
その相手はどんな絶世の美人かと思えば、何でもない、毎日学校の受付で見かける馴染みの顔だったのだから誰もが呆けた顔をするのみ。
一部では地に足のついていないグレンが恋人で本当にいいのか、騙されていないか、とフォシルの身を案じる者まで出てきたほどだ。
ところが心配するまでもなく、フォシルと付き合い始めてからのグレンは女遊びをぱったりと辞めた。酒と煙草とギャンブルは妥協できなかったようだが。



そのまま数か月、誰が見ても胸焼けするようなやり取りを学内外部問わず見せつけ、そのまま2人は婚約までこぎつけた。
結婚の折には再度本当にグレンでいいのかとフォシルを心配する者が大勢現れたが、彼女は何の躊躇いもなく笑顔でもちろんと頷く。
まぁ2人が幸せなら・・・と、最終的には皆が揃って2人を祝福したのだった。



そう、これが人並みの幸せ。
いつまでも続くと信じていた、甘い時間。

-05-


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