久しぶりにジストが青の国を訪れたのは、コーネルが17歳の誕生日を迎えた日だ。
しばらく会っていなかったジストと向き合うと、目線が同じくらいである事に気が付く。
「なんという事だ!
今まで私の方が身長が高かったのに、気付けば抜かれてしまいそうではないか!」
この世の終わり風に大袈裟な仕草で悔しがるジストだが、すぐに切り替えて見慣れた笑顔を浮かべる。
「誕生日おめでとう、我が友よ。
久しぶりにまた剣を交えようか?」
ほんの余興で対するが、やはりジストに勝てない。
一体何がいけないのか。毎日剣の稽古は欠かさないというのに。
「そういえば、ここだけの話。
来年、私が18歳の成人を迎えたら、私は緑の国の王となる事が決まった」
現国王アメシスの病状は思わしくなく、これ以上の国事は生命に関わると判断されたが故。
一足早く王になるジストはその誇らしさを語るが、裏側に大きな不安も抱えていそうな印象があった。
「本当に、私が王となってもいいものか。
私はまだ何も知らないような気がする。
ここまで脇目も振らずに王子としての職務を全うしてきたつもりだが、この足で街へ立った事もないし、上流階級の者と直接関わった事もほぼない。
こんな私が大勢の国民を束ねられるのだろうか」
それは、どんな王族も同じ事。
コーネルだって城からほとんど出た事はない。恐らくはラズワルドもそうだろう。
何も知らない自分が国を治める危うさ。ジストはいち早くそれを察知しているようだ。
とはいえ、王子が人々の暮らす街に降り立つなどあり得ない事。
――そう、運命を覆すほどの力がなければ。
「まぁ、私は恵まれているな。
君と言うこれ以上にない同じ立場の友がいるのだから!
これからもよろしく頼むぞ!」
カキン、とグラス同士が触れる。
――いつまでも追いつけないわけだ。
俺はずっとこいつを追いかけているが、こいつはその先の、もっと広いモノを見ている。
届くはずがない。
俺など、お前と同じ立場などと言えた立派なものじゃない。
「いつか君と手を携えていける日が来たら、私も嬉しいよ。
2人で素晴らしい国を、世界を、作っていけたらいいな!」
その時は、ただ思いついた言葉をそのまま言っただけだったのだろう。
次の年には、その言葉が国という言葉だけでは囲えない意味を持つ事になろうとは、誰も想像していなかったのだから。
-08-
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