「ミストルテイン城が落ちた?!
それは本当なのですか、父上」
誰もが微塵も予想しなかった、緑の国の崩壊という未来。
あの日、この手を握り、今の自分という世界へ連れ出してくれた友。
真実を告げる父の重苦しい口振りの傍らで、いなくなってしまった親友の笑顔だけが脳裏を駆け巡る。
一体何が起こったのか、コーネルにはまだわからない。
それでも、どこかで困っているのなら、1人取り残されて不安になっているのなら、救いに行かなければならない。
認めない、認めない、認めない。
あいつまでもが手の届かないところに行ってしまうなんて。
今際を彷徨っているのなら力ずくで連れ戻してやる。
今の俺には、その力があるはず。
それでも、仮にも王子であるコーネルの自由を許すなど一切なく、逆に閉じ込めたいとすら考える父の厳しい両眸。
だがこればかりは譲れない。譲ってしまったら、“また”後悔するような気がして。
――もう嫌なんだ。俺はまた、何かを失えば今までの全てを手放すだろう。
それはもう、したくない。
してしまったら、もう元には戻れない気がするから。
そんな彼の悲痛な思いを知ってか知らずか、当の親友はまたもやその運命を受け入れて立っている。
傍らに置く妙な長身の男はよくわからないが、拍子抜けにもほどがある。
無事だった事は心底安堵するものだが、大切なその友人は、いつからか鳴りを潜めていたやんちゃ盛りの頃の表情を浮かべていた。
見たくても見られなかった、そしてこの先も見る事はないと思っていた“世界”。
ジストは今、それを見ている。
故郷を失くした哀しみなど吹き飛ばすような軽やかさで、犬を連れて散歩している。
――見ていられない。
どうしてそう危ない橋を渡る事を躊躇わないのか。
気付けばコーネルは追いかけていた。
いつだって、彼はジストを追いかけていた。
だからこれは特別おかしくもない事。
それでも、昔の自分と決別した、最初の一歩。
彼の手は大切なものを守り抜けるのか。
答えはまだ、誰も知らない。
【Another Chronicle 前日譚 “Dear my friend, From your friend”】
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