父の目論み通りか否か。
祝宴の席で会って以来、ジストは頻繁に青の国の城を訪れるようになった。
そのほとんどが、使者としてやってきた緑の国の王家専属の術士レムリアにくっついてくるような形だ。
アメシスの話では、ジストはコーネルをすっかり気に入ってしまい、青の国に行く用事が出来る度に同行させろとせがむらしい。
使者であるレムリアはジストの教育係も務めているらしく、アメシス曰く、まぁ君が面倒を見てくれるならとジストの好きにさせているという。
そうやって困ったように笑うレムリアをそっちのけに、青の国の城についた途端にジストはコーネルを探しに飛び出していく。
コーネルが最近ようやく本腰を入れ始めた剣を振るっていてもやってくるし、彼が修行の後に汗を流そうと湯浴みをしていれば容赦なく乱入してくる。

いつしか天真爛漫なジストに掻き乱される王城の日常にコーネルの怒号が響くようになり、イタズラを仕込んで逃走したジストを鬼の形相で追いかけるコーネルの姿が目撃されるようになる。
あんなにおとなしく内向的だったコーネルの変化を喜びつつも、時折笑えない被害をもたらされてラズワルドの怒声が城を震わせていた。
つまらない言い合いで喧嘩をしたかと思えば、寸分後には中庭の木陰で2人揃って仲良く居眠りをしている事もある。
帰り際がまた厄介で、帰りたくないと駄々をこねるジストを両腕で抱えて帰路につくレムリアの姿も毎度の事だ。
邪魔者が帰った、清々する、と口では悪態をつくが、去っていく馬車を窓からずっと見つめているコーネルの姿に一端の同情が芽生える使用人も多かった。



ずっとピアノに明け暮れていたコーネルとは違い、ジストは幼い頃から剣と魔法の修行に励んでいたという。
ようやく剣を手にする覚悟を決めたコーネルの相手としてジストが前に立てば、やはり経験の差がはっきりとしてしまう。
秀でた才能を誰もが絶賛してくれていた時期を知っているからか、剣でジストに負けた事はコーネルにとってかなり衝撃のようだった。

それは、いつかの親睦の席。
誰かの一声でジストとコーネルの剣を交える場が作られ、それぞれの親達も酒の肴程度の軽い気持ちでニコニコと眺めていた。
だが一度剣をとったジストはいつもの腕白なイタズラっ子ではなく、“王子”らしい顔つきとなる。
体力も技量も、コーネルとはまるで違ったのだ。
一方的に負かされ、両者の腕の差を周囲に晒されたコーネルは、その後数日間悶々と部屋に篭ってしまった。



次に部屋から出てきた日には、早朝から剣をとり、師匠さえも体力を空にするほど無我夢中で剣を振るっていた。
王家の男子としての嗜みで剣術を磨くのは伝統だったが、戦場に出る機会など生涯あるかないかの平和な国だ。ましてや王家の者が、だ。
何もそこまで必死にならなくても、とやんわり止めるほどに、コーネルは毎日を剣の修行に費やしていった。
おかげで体力が向上し、病がちだった体質も改善傾向にあったが、やはり机に向かう事は嫌った。
現役の王としては息子にはまず建国からの歴史をすべて頭に叩き込んで欲しかったのが本音のところだが、言葉で言っても聞く耳を持たないのだから仕方がない。
コーネルとは違ってピアノを続けていたリシアは、鍵盤に触れながら弟の愚直なまでの入れ込みように呆れていた。

そんな日々は、コーネルが16歳になるまで続いた。


-05-


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