「コーネル殿下、10歳のお誕生日おめでとうございます」

祝宴の席で次々と、招かれた貴族達がグラスを片手にコーネルへ歩み寄る。
愛想笑いといった気の利いた事が苦手なコーネルは、うん、と頷いて乾杯を受け入れる。
その隣で取り繕うようにリシアが笑顔を振りまいている。
彼女ももう14歳。顔立ちが昔の王妃の生き写しのようだと絶賛され、姫君らしく愛らしい微笑みを浮かべていた。

「よう、コーネル。やっと10歳か。へへっ。もうママの事は立ち直ったか?」

グラス片手に煽るような言葉を投げかけるのは、分家の従兄であるシンハ。
眉をひそめるコーネルの顔色を伺い、シンハの妹のマオリが膝蹴りを兄の腰に叩き込む。

「ま、マオリ様、はしたないですわ」

慌てた側近がマオリを窘め、必死で頭を下げる。
それでもケロッとした面持ちでマオリは会釈した。

「あら、ごめんあそばせ?
・・・お誕生日おめでとうございます、コーネル様。
お初にお目にかかります、わたくし分家のマオリ・ヴィルベル・オリゾンテと申します」

聞けばこの少女もコーネルと同い年だという。
半ば匙を投げられたような素行不良な兄シンハとは違い、貴族令嬢としての礼儀は弁えているようだ。
リシア以外の少女を知らないコーネルは一歩退いて警戒しつつも、また頷いて返答とした。

「おお、あれはアメシス国王では?」

「もしやその傍らの子は!」

ざわざわと場内が騒ぐ。
注目の的であるそちらへ目を向けると、初老風の優雅な黒髪の男性、そして傍らには同じく黒髪の少年がいた。
初老の男性はコーネルとリシアに気付き、にっこりと笑う。

「わっ、アメシス様よ!
コーネル、ご挨拶しなきゃ!
失礼はご法度よ。緑の国の王様でお父様のご友人なのだから!」

リシアは慌ただしく身形を正し、関心が薄そうなコーネルの襟元もついでに直した。

「はっはっは!
君達がラズワルドの子供達だね?
初めまして。私がアメシスだ。話くらいなら聞いているかな?」

男性――緑の国の王アメシスは、落ち着いた紫の瞳を細め、親しみやすそうに微笑んでいる。
着実に重ねてきた年月を思わせる皺さえも魅力に感じるような端正な男だ。
リシアは今日一番の笑顔でアメシスに挨拶をする。
彼女はその流れで、ぱちぱちと瞬きをするコーネルの後頭部を引っ掴み、強制的に頭を下げさせる。

「さぁ、挨拶なさい。
こちらがリシア王女、そしてこちらが今日の主役のコーネル王子だ」

アメシスは傍らで来客に人懐こく話しかけていた少年の肩を、くいくいと引っ張る。
振り向いた少年は、大きな赤紫の瞳を見開いてから、満面の笑みを浮かべた。

「はじめましてだな、コーネル!
わたしはジストと言う!
よろしくたのむぞ! はっはっは!」

「こらこら。もう少しかしこまりなさい。
・・・ははは、こんな子で済まないが仲良くしてやってくれるかい?」

父の笑い方を真似るその少年は物怖じせず、寸分迷わずコーネルに手を差し出す。
今まで関わった事のない人格のこの少年に正直なところかなり警戒していたが、コーネルは恐る恐るその手を握る。

――それは、これから先ずっと忘れない、最初の握手だった。



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