コーネルが10歳の誕生日を迎える日。
先日母を亡くしたが、無事にこの日を迎える事ができる息子に祝いの1つでもしてやれまいか、と国王は思案した。
というのも、どこか国王は息子の様子に不安を抱えていたからだ。
王妃の喪が明ける前に、コーネルは自室からピアノを処分してしまった。
あんなに夢中になっていた相棒だというのに、綺麗さっぱり、なんの未練もなさそうに、ある日突然。
大きなピアノが占拠していた自室はまるで生活感もなさそうなほど簡素なものになってしまい、その相棒を撤去したついでに音楽に関する書籍も全て燃やしてしまった。
まるで王妃の後を追う準備でもしているようだ、と使用人がぼやくほど、何もない部屋。
まだ10歳弱の子供だ。そんなわけがあるまいと国王は息子の行動をとやかく言わなかったのだが、わかってはいても妙な焦燥感に駆られる。
唯一の跡取りをどんな形であれ失うわけにはいかない。自身も最愛の妻を亡くしたばかりだからか、この胸騒ぎをどうにか鎮めたかったのだ。
国王は、隣国である緑の国の王と幼い頃から親しかった。
これは半ば両国の伝統のようなもので、先代も先々代も互いの国の王は親しい間柄だった。
青の国と緑の国が長年同盟国であるのは国王同士の親睦の深さも要因の1つだ。
特に強いられている伝統でもないが、この先2国が道を違える必要も特にない。
国王は緑の国に、愛息の誕生日を祝う宴への招待状を送る。
1通は現王に、もう1通は、その息子に。
コーネルが生まれた年、数か月後には緑の国でも王子が誕生した。
まだ会った事はないが、とても快活で賢い子だと噂に聞く。
コーネルは生まれてこの方城の中で育っており、同い年の子供とは会った事がない。
もし同年代の子供と触れ合えたとしたら、少しは気晴らしになるかもしれない。
国王が親友にそう相談すれば、もちろん快諾する返事が届き、祝宴に息子を連れて訪ねようと約束してくれた。
父からのささやかなプレゼントだ。これが末永く続く縁である事を願い、当日を待ち望んだ――・・・
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