ゴーン、ゴーン・・・――

教会の鐘が鳴る。



ミストルテイン王都の中央広場には花が溢れていた。
戻ってきた住民達が広場に赤い絨毯を敷き詰め、それぞれが持つ籠に花をたくさん詰め込んでいる。
かつては叶わなかった、待望の祭り。それも婚姻の儀式だ。
美しく蘇ったミストルテイン城から、新しい国王と、純白のドレスに身を包む花嫁が現れる。

「ジスト様、ばんざーい!!」

「ユーディア様、ばんざーい!!」

民が花籠から花弁を空へ向かって撒く。
そよ風に吹かれ、それは花吹雪となって王都を可憐に彩る。



「では、これより誓いの言葉を」

執事に誘導されてやってきた聖職者は、白銀の長い髪を揺らす美しい女性。
瑠璃色の瞳は真っ直ぐに国王夫妻を見つめていた。

「ジスト・ヴィオレット・アクイラ陛下。
この都の風が続く限り、ユーディア・レーレ・フリューゲルを愛すると誓いますか?」

「はい」

「ユーディア・レーレ・フリューゲル公爵令嬢。
この都の歴史が続く限り、ジスト・ヴィオレット・アクイラを愛すると誓いますか?」

「はい」

「今ここに、2人の婚姻を宣言します。
証となる絆を交わしてください」

国王と妃は、互いの指に指輪を嵌める。

「――では、誓いの口づけを」

少し屈んだ花嫁のベールがゆっくりとあげられる。
とても幸せそうに微笑む、まだあどけなさを残した顔。

その唇に、そっと口づけを添える。



「ばんざーい! ばんざーい!!」

「おめでとうございます!! ミストルテインに栄光あれ!!」

白い鳩が空へ放たれた。





「・・・ふふ。緊張してしまいました。
でもありがとうございます、陛下。私のような者にこのような大役を」

「なぁに、君以外に適役がいるとでも?
ありがとう、サフィ。素晴らしい式典だった。
・・・アンバーは?」

「いるよ~。こっちこっち。
おめでと、王サマ。いやぁ、やっぱいいねぇ、結婚式って!」

ヘラヘラと笑いながらやってくるアンバーは国王の背を叩く。

「で、ユディは?」

「疲れて眠っているよ」

「えぇっ、初めての夜なのに?!」

「・・・ちょ、ちょっとアンバーさん・・・!!」

ケラケラと彼は笑った。



「・・・本当に、背負っていくんだね。“ジスト”っていう名前を」

国王は静かに頷く。

「――僕だけが出来る事だと思うから。
この国を建て直して、ジストっていう名前を歴史に刻むんだ。
僕の大切な・・・半身の名前を」

青銀の瞳が黒髪から覗く。

「でも、中身まで頑張らなくてもいいんじゃ・・・」

「いいんだ。こうしていると、本当のジストが、傍で励ましてくれるような気がして。
それに、素の僕じゃ、どうしても弱腰になっちゃうからね。
特にコーネルに対しては」

冗談っぽく言うと、“彼”は笑った。



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