「よう、クーちゃん。今日も景気よく寝てるかぁ?」

この頃毎日のようにグレンがやってくる。
眠ったままの友人の枕元で、他愛もない話をするのだ。



「ま、なんだ。俺もそろそろマトモに生きようかと思ってな。
久しぶりに教師に復帰してみた。アルマツィアでな。
俺が連れてた嬢ちゃんいただろ、シャルってやつ。
あいつ本当に優秀でな。ありゃ三賢者の名も危ういぜ、俺」

彼は懐から煙草を取り出す。
が、少し間をおいて元に戻した。

「お前、今起きたらビビると思うぜ。
お前の娘は順調に優等生してるし、お前の後輩は今や学長の次にエラい。っていうかお前のポスト盗られてんぞ。クハハ!!
・・・ま、なんだ。別に心配しなくていいってこった。
気が済んだらさっさと起きろよ。
俺も酒飲み仲間がいなくて退屈してるしな。
お前がずっと気に病んでいた部分も、誰かさんがしっかり処理してくれたし、別に誰もお前を恨んじゃいねぇからよ」

今日も静かな夜が来る。
学校内の賑やかな喧騒は、落ちていく夕日と共に鎮まっていく。



「はぁ。ここはいつ来てもあっちぃな。
そろそろキンキンに冷えた酒でもキメに行ってくるか」

よいしょ、とグレンは立ち上がる。

「また来るぜ、クー。
ずっとここにいろよ。せめて俺が会いに行ける場所にな」

ふわ、と彼は姿を消す。
神出鬼没な彼は、現れる時も去る時も一瞬だ。





「博士~、具合どうですか~って・・・
うわ、香水臭い。またグレンさん来てたんだ」

換えの点滴を持ってきたカイヤは、開けっ放しの窓を見て苦笑する。

「ね、博士。聞いてください。さっき無事にハイネさんを受け入れましたよ。
博士、意外に頑張ってくれたんですね。値切り交渉。あははっ!」

横たわる彼の手をそっと握る。

「・・・よかった。温かい。
ボク、頑張りますから。絶対に助けます。絶対に」

昏々と眠ったままの横顔。
それでも、気のせいか、手を握り返された気がした。



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