大きなお腹を抱えるリシアが庭を散歩している。
通りかかったクロラが驚いて思わず駆け寄った。

「り、リシアさん?
貴女一体何を・・・」

「何って、散歩よ?
こんな身体だけど、だからこそ運動が大事なの。
5ヶ国会議も近いしね」

「え、えぇ、それはまぁ、そうなのですが・・・。
あまりにもつらいというのであれば、無理なさらずとも」

「平気平気。だって私、教皇の妃よ? 出ない訳にはいかないわ。
それに・・・」

「・・・それに?」

リシアはイタズラっぽく笑う。

「王様になったコーネルを早く見たいの!!
もう超楽しみなんだから!!
王位継承のお祝い、嬉しすぎて奮発しすぎちゃったわ。
経費がかさんじゃったけど、許して♪」

そして、もう1つの理由。

「ミストルテイン、復興宣言したんでしょ?
頑張ったわねぇ、“ジスト”。あの子も王様になったんでしょ?
これはもう、見に行くしかないっ!!」

「まったく・・・。それだとただの野次馬ですよ・・・」

あはは、と少女のようにリシアは明るく笑う。
この宮殿に来た頃には想像もつかない、雪の中に咲く華やかな一輪の花のような笑み。

「・・・あ!
ねぇ、クロラ、私のお腹! 触ってみて!」

彼女に誘われるがまま、彼女の腹部に手が当てられる。

「これは・・・」

「動いてるのよ!
元気いっぱい。どんな子が生まれてくるのかしらね〜♪
男の子かしら、女の子かしら?
両方だったりして!」

明るい笑顔につられ、クロラも微笑む。
平和な世界、穏やかな時間。

――“誰か”が必死で守り抜いた世界。
当たり前という奇跡がそこにはあった。



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