新しい女王政府の発足から初めての闘技大会。
毎年その時期には闘技者の奴隷達は死に怯え恐怖に震えていたが、今年は雰囲気が違うようだ。
「殺し合わないィ?!
本気で言ってんのかお前!!
・・・あ、いや、女王陛下・・・」
無言のゼノイの剣を喉元に受けた貴族の男がすごすごと語尾を萎ませる。
「これは次の世代の闘技大会さ。
殺すだけなら力さえあればできるというもの。
だがこれからは“いかに相手を傷つけずに勝利するか”という点で優れた者を城に迎えたい。
知恵と勇気、双方を持ち合わせた人材さ」
「はっ。そんなの甘ったれた考えだ。
あーあ、やっぱり女が王になるなんてどうかしてるんだ。頭ン中お花畑かってんだ」
再びゼノイの剣が向けられ、ギャア、と悲鳴を上げてその男は退散していく。
「はっはっは!
ゼノ、もういいよ。君のその形相だけで賊の百人は逃げ出すというものだ」
「でも、ティルバ様。あいつ・・・」
「ま、許してやりたまえ。
それはそうと、そろそろ5ヶ国会議が近づいてきた。
そちらの準備もせねばな。闘技大会が終わったらすぐの日程だ」
ティルバは山積みの書類の前にどっしりと座る。
「各国それぞれ王が入れ替わって初めての場だ。
いやはや、緊張するな。どうやら私が王の中でも最年長らしい。
とはいえ、アルマツィア教皇に口で勝てる気はしないな。
うっかり喧嘩を売らないように、私の事を止めてくれよ、ゼノ」
「・・・本当に俺がついていっていいんですか?」
「当たり前だ。だって君は私の婚約者だ。
挙式はまだだが、未来の王族の一員として十分出席する権利がある」
「・・・俺、元奴隷ですけど・・・」
「なぁに。今の5ヶ国で奴隷を嗤うような浅はかな王はいないさ。
君だって良く知ってるだろう?」
う、と言葉に詰まり、ゼノイは少し頬を赤らめる。
部屋の片隅には、ティルバのために新調された花嫁の冠がそっと置かれている。
「そうだな。来年の会議にはぜひ王子か王女も連れて行きたい!」
「は、・・・はっ?!」
「ははは! 冗談だよ。
まぁでも、子供は早く欲しいな。私は子供が大好きでね!」
呼吸をするように冗談を言う女王だ。その度に調子を狂わされる。
それでも、夢のような、幸せな時間だ。
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