眠ったままの黒竜の鱗を撫でる。
戻ってこい、と必死に呼びかける。
さく、さく、と小さい足音がゆっくりと近づいてくる。
その音に気が付いたジスト達が一斉にそちらを向くと、ユーディアが“立っていた”。
「ユディ、君、脚が・・・!!」
小さな少女の足跡が、飛空艇からここまで伸びている。
おぼつかない足取りでこちらにやってくる彼女をジストが支えた。
「ユーディア、歩けるのか?」
「・・・はい。まだ、ふわふわ、した感じ・・・なのですが」
まるで呪いが解けたように、自分でも信じられないくらいに地を踏みしめている。
「カルセさん、は・・・」
「ぐっすりだよ。まったく、ほらほら起きてってば、カルセ。
愛しのユディが心配してるぞ?」
「本当に、アンバーさんってば緊張感のない・・・」
ジストに支えられながら、ユーディアは黒竜に近づく。
小さな手で、黒い額に触れる。
「カルセさん・・・。
ユーディアを、見てください・・・。
歩けるように、なったんですよ・・・?
今度は自分の足で、カルセさんと、歩きたい・・・です・・・」
桃色の瞳が雫を零す。
暖かな涙が、黒竜の頬を濡らした。
「・・・サフィ、覚えてる?
5つの指輪と、2人の聖女の話」
アンバーが尋ねる。
きょとんとしたサフィが彼を見上げると、穏やかな視線が覗いていた。
「邪なる者を封じたのは、5つの指輪と2人の聖女。
ここには2人、聖女サマがいる。
・・・もしかしたら、何かできるかもよ」
はっとする。
その物語が本当なら、私が、彼を救える・・・――?
「さぁ、俺は“ここまで”。
行っておいで、サフィ。君にしか救えない人がそこにいるんだ」
あぁ。いつかこの日は来ると思っていた。
ぎゅっと目を瞑り、サフィはユーディアに近づく。
「ユディさん。一緒にカルセさんに祈りを捧げましょう。
きっと大丈夫、私がついていますから」
サフィとユーディアは向き合って手を組む。
ただ一心に、その想いを通じ合わせる。
「・・・これは・・・」
周囲からふわふわと光の粒が舞い上がる。
辺り一面が、果てはこの霊峰自体が美しく光り輝いているようで。
春風のような流れが、黒竜を包み込んだ。
――僕は、生きたい。
大切な人の笑顔を、見守りたいんだ。
-356-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved