霊峰と呼ばれるそこは、この世界で最も高い場所。
頂上から世界を一望できる。
そんな場所に降り立った黒竜と、それを追ってきたジスト達。
――世界は今、必死で抵抗している。



ジスト達が霊峰の地をその足で踏みしめるのを、リアンは薄ら笑いで眺めている。

「決着をつけようか、リアン。
我が恩師、・・・我が仇」

ジストは宝剣を引き抜く。
彼女の心に呼応するように、その剣は白く煌めいた。

「貴女という存在。私にとってはそれも想定のうち。
いつか私の前に立ちはだかると予想して送り出したのです」

「何故だ?
あの日旅立った私は、何も知らない愚かな一人間に過ぎなかったのに。
どうして私をここまで生かそうと思ったのだ?」

「やがて貴女はここに立つと予想したまで。
私を止める唯一の存在として、今のように。
愚かな人々は、貴女1人の背に重すぎる責任を背負わせる。
そうして貴女以外の者が立ち上がるのを未然に防いだのですよ」

黒い鱗に手を添えながらリアンは言う。

「貴女は私に作られた英雄。
貴女1人をねじ伏せるなど造作もない事。そうして障害を取り除いた後に、この世界を創り変える。
――人々はどこまで進む事ができるのか。私はその天井を知りたい。
“向こうの世界”にはその才能がある。しかし、これ以上発展できるだけの時間が残されていない。
私は“人類を育てている”のです。未来に繋がる才能を摘んでしまう“世界”という有限の垣根など、崩してしまえばいい。
見てみたくはありませんか?
やがて辿り着く人類の歴史の末端がどのようなものなのかを」

「・・・君はそうして、永遠に数多の世界を壊していくのだろう。
何千、何万、いや何億という人々を犠牲にしてでも、君はずっと」

「そうでしょうね。無数の世界に住むすべての人類の最後の1人が私になるまで、この旅は終わらない」

「させてたまるか、そんな事を・・・!」

リアンの瞳は別の次元を見つめている。
人間1人の命など何とも思わない、人類という一括りだけを見渡す瞳。

「良いでしょう。
貴女が私を否定するのであれば、これ以上貴女に時間をかけるのは無意味というもの。
わかっていました。誰も理解しないのですよ。唯一、私が友だと認めた“彼”でさえも、ね」

黒竜がリアンに送り込まれた魔力で邪悪な力を纏う。
もはやそこにはカルセの面影がない。

「――行くぞ、皆!!」

全員武器を構える。







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