アルマツィア各地の被害状況と人員の配置の指示に追われる教皇。
慌ただしく次から次へと兵士が報告にやってくる。

「北の要塞が60%の損傷、死亡者は配置人員の20%です」

「では要塞の損傷が80%を越えたら総員退避。北は放棄して西へ移ってください」

「教皇陛下、カルル村より伝達。村の過半数の建物が倒壊し、全住民を教会に匿い立てこもっているとのこと」

「最優先で騎士団の第一小隊を向かわせて下さい。
衛生兵を5名同行させるように」

「教皇陛下! 緊急です!
クルトの街にも魔物が現れたとの情報!
現在一時的に傭兵ギルドから“虹獅子”率いる精鋭十数名を応援に向かわせているとのこと!」

「ではそちらには追加で第三小隊を派遣。
第二小隊は引き続き聖都の守備を」

目まぐるしく状況が移り変わっていく。
常人ならばパニックに陥りそうな戦況を、クロラは淡々と捌いている。
立ち尽くすリシアの方がおろおろと落ち着かない。

「・・・ねぇ、クロラ。
私も何か出来ることはない?」

報告に来る兵達の切れ間を狙ってリシアが尋ねると、ペンを走らせるクロラは溜息を吐く。

「貴女は私の目が届く場所で待機していてください。
少なくとも勝ち筋が見えてくるまでは、私は冷徹な機械になるより他ない。
余計な私情を挟んでいられないのでね」

「とは言っても、こんな状況でぼんやり立ったまま、だなんて・・・」

「それでいいのです。貴女は私を監視していてください。
少しでも私が揺らいだら、殴ってでも立ち直らせてください。
私も人間です。いつまでも機械のような思考回路を保っていられるわけではないので。
それが出来るのは貴女だけです」

「・・・わかったわ。私の拳は痛いわよ。覚悟しておきなさい?」

「実に頼りがいのある返事です」

再び戦況の報告に兵達が押し寄せてくる。
先の見えない状況。時間の流れさえもわからなくなる。

――頼みますよ、ジスト殿下。







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