「ハイネ!
お前は下がっとれ!!」

足の悪い長老が、屋敷の方から大声で叫んでいる。
その声には従わない。オアシスに攻め込んでくる魔物を、ハイネがフライパンで叩きつける。
彼女の首には、銀の指輪を通したネックレスが下がっていた。

「あかんで、ハイネちゃん! 危なすぎんで!
ここはおっさん達がなんとかするさかい、ハイネちゃんは長老と逃げるんや!」

「あかんの!! うちかて戦うもん!!
うちは弱くない!! おとんのムスメやもん!!」

怖くないはずがない。まだ8歳なのだから。
それでも、その身にはまだ早すぎる勇気を振り絞っている。

「やめてぇや、ハイネちゃん!!
こんなんお父ちゃんかて嬉しくないわ!!」

長老の隣でマシューが泣き叫ぶ。
それでも、それでも。
ハイネは懸命に腕を振り上げる。

「危ない、ハイネちゃん!! 後ろや!!」

はっとして振り返る。
禍々しい牙を持つ魔物が飛び掛かって・・・――

――うちもおとんのとこ、行けるん?



ザシュ、と斬撃が横入りする。
その素早さたるや、一瞬すぎて気づかないほど。
咄嗟にうずくまっていたハイネが見上げると、女性の後ろ姿があった。
その両手には短剣が握られている。

「やっぱり“あんた”の子。無茶ばっかりするんだもの。
でもいいわ。せっかく頑張っているんだし、その気持ちは諦めさせたくない。
私がついててあげる。絶対守ってあげるから、思う存分暴れなさい、ハイネちゃん」

「・・・姉ちゃん、おとんの・・・」

「ふふ。ごめんなさいね。大丈夫よ。あなたのお父さんとはなんでもない。ただの友達だから」

振り返った彼女はウィンクを投げる。

「魔物を全部やっつけたら、あなたのお父さんの話をしてあげる。
きっと、もっと好きになるわよ。お父さんの事」

ハイネは頷いて、もう一度立ち上がる。





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