すぐにジスト達も黒竜を追って空へと舞い上がる。
上空からでもわかる。魔物の大群が魔境を抜けて人里へと押し寄せている。
黒い集合体がうねるように直進していた。
その道すがら、周囲の自然を薙ぎ倒していく。
「カルセドニーさんを依代にしたあの竜が“邪なる者”ということですか。
いや、もしかしたら魔境から湧き出てきたあの魔物の大群を総じて“邪なる者”と呼ぶのかもしれません。
この大群は、あの竜を司令塔にして動いているようです。
つまり竜をどうにか止める事ができれば、あの大群は沈静化するはず」
目先に黒竜が飛ぶ姿を捉えながら舵をとるカイヤはそう話す。
生まれつき強大な魔力の可能性を秘めていたカルセをリアンが奪い、いつか訪れる“その時”まで生かしていた。
心無いリアンに育てられたカルセもまた等しく心を持たず、内に秘めたる魔力を引き出せずにいた。
あろうことかそのきっかけを作ってしまったのはジストだ。
だが彼女に後悔は一切ない。
――彼もまた、大切な仲間だから。
彼が見て、感じた、そのすべてが価値のあるものだと思ったから。
「すまない、ユーディア。 助けるのが遅くなってしまった・・・。
大切な君の心を引き裂くような光景を見せてしまった」
自分の周りにいた人々すべてを目の前で奪われた彼女の傷の深さは計り知れない。
彼女の瞳はまだ虚ろに揺らいでいる。
「ジストさま・・・
どうかカルセさんを助けてください・・・
あの人まで奪われてしまったら・・・ユーディアはもう・・・生きられない・・・」
ジストは、震えるユーディアの肩を抱きしめる。
彼女はまだ年端もいかぬ幼い少女。
まだ正気でいられる事に、むしろ驚かされるくらいだ。
「あの賢者共はどこへ向かっている?」
目先を睨むコーネルがカイヤに尋ねる。
「この方向は・・・アルマツィア方面だと思います。
あの人、まさか聖都にもけしかけるつもりで・・・?!」
この世界は5ヶ国で成り立っている。
その5ヶ国の中で頂点となるのは、教皇がいる聖都アルマツィア。
もしそこを落とされたとしたら、現存する国家すべてが崩壊する未来もあり得る。
「・・・王子、大丈夫ですか?
リシア王女のこと・・・」
「ふん。今更どうにもならん。
聖都が持ちこたえている間にこちらですべてを処理すれば済む事だ」
心配していないわけでは一切ない。
ただ、そこを統べる者を信じているだけだ。
「黒竜、下降していきます。
あそこは・・・」
「霊峰じゃん。
熱心な聖職者がお参りしに行くとこだよ。
俺、小さい頃に連れて行かれたことある」
真っ白な雪が積もった、厳粛な山脈。
竜を追うジスト達もそこへ向かう・・・――
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