奈落の底から、噴火するような勢いで魔力が放出される。
それは人が立っていられないほどの暴風となり、周囲の木々を薙ぎ倒し、地上を走りゆく。
「カルセ、カルセ――――ッ!!!」
吹き飛ばされ地面に這いつくばるジストは彼の名を呼ぶ。
しかし暴風がその声を無残に掻き消す。
信じられない光景が広がる。
奈落の底から大量の魔物が湧き出てくる。
見た事もない異形の生物は、あるものは6本の脚で大地を駆け、またあるものは3対の翼を広げて飛び去っていく。
本能のままに魔境を蹂躙し、その先へ、その先へとすべてが駆けていく。
このままではこの大量の魔物が人里に押し寄せる事になる。
「やめろ、止めてくれリアン!!!
本当にすべてが壊れてしまう!!!」
ジストの叫びが届いているのか否か、彼は笑っていた。
――リアンの目の前にいたカルセが、人の姿を失っている。
漆黒の鱗を持つ竜へと変貌したカルセは、青白い炎の息を漏らしている。
一気に吸い込み、そして吐き出した青白い光線は、はるか遠方まで一直線に放たれた。
座り込むユーディアが、その竜の姿を見て固まっている。
「あぁ、――あぁ・・・!!」
ユーディアの瞳から涙が零れ落ちる。
同時に、空に浮かぶ赤い光が強い光を放った。
「貴女に何よりも効いたのが“コレ”とは。
本当に、心というものは数式に当てはまらない」
空から差す赤い光がうずくまるユーディアに注がれる。
じわじわと流れ出る彼女の魔力は、赤い霧のような姿をしていた。
リアンが彼女にゆっくりと近づく。
「私にはかつて優秀な部下がいたのですが・・・
彼は私が準備してきたものをすべて無駄にしたのですよ。最後の最後にね。
だから恨むなら彼を恨むといい。
貴女はこれから無駄になったモノの代わりとなるのですから」
「させるか――――ッ!!!!」
強風を押して駆け出したジストは、ユーディアに覆いかぶさるようにしてから剣を抜く。
切っ先はリアンに向いていた。
「・・・姫様。
どうして貴女はこんな世界のために私に抗うのですか?
もう貴女は知っているのでしょう?
貴女は“私達”の同朋だと」
「ああそうだ! 確かに私は“向こう”の存在だ!!
だがな、私の心はこの世界にある!!
この素晴らしい世界の未来を曲げてまで生きたいとは思わない!!
この命はこの世界のために使うと決めた!!!」
ジストの瞳に涙が溢れてくる。
悲しいのではない。これは、昂る感情が表に出たもの。
「ただ傀儡であればいいというのに。
余計な邪魔が増えたものですね」
一歩、二歩、とリアンは後退し、黒竜の足に乗る。
「そこまで言うのなら、いいでしょう。
私はこれからこの世界の“旧人類”を殲滅しに回ります。
貴女が私を止めたいのならば、追いかけてきなさい」
黒竜は巨大な翼をはためかせて空へと舞い上がる。
「カルセ・・・!
・・・っく・・・!!」
「姫様、すぐに追いかけましょう!
こっちだって空を行く方法があるんですから!!」
「あぁ!
ユーディア、大丈夫か、無事か?!」
「うっ・・・ぅ・・・
カルセ、さんが・・・」
「ええい、そいつを慰めている暇などないぞ、ジスト!
おい、いつまで泣いている、ガキ!!
あいつはまだ死んでない!!」
はっと顔を上げたユーディアを、コーネルが背負い上げる。
「だ、大丈夫なのかコーネル!?」
「いいから!
お前らは寄ってくる魔物を殺せ!!
走るぞ!!」
「OK、任せて!
サフィ、走れるかい?
王子の男気のために俺も頑張っちゃうからね!」
「はい、急ぎましょう!」
一行は飛空艇へと全速力で駆けていく。
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